第四章 語りを工夫する
第四章には、文脈を活用して修辞効果をねらう技法をまとめました。
【列叙法(アキュムレイション)】
概説:あるカテゴリー(集合、分類、系統他)に属する要素を並べ立てていくことで、カテゴリー、あるいは諸要素をの特質や多様性を強調する修辞技法。
用例:「うまい、やすい、はやい」「世界にはさまざまな国存在する。ある国は絶海の孤島に佇み、ある国は大山脈の山麓に伸びる。ある国は一大陸を席巻し、ある国は砂漠を貫く大河の賜物である。」
付記:用例の二つ目、後者二つは一応特定の国を想定しております。
【逆説法(パラドクス )】
概説:「(一般には〇〇と思われているだろうが)〇〇は全く良くない。●●が何より良い。」といったように、一見常識に反する内容で、一面の真実を示すことを試みる表現技法。逆説である以上、正説(一般的な説明)が読み手、聞き手に認知されていることが重要となる。
用例:「急がば回れ」「天才は人に教えるのに向かない」
付記:用例が少ないのは、議論をよぶ可能性があるためです。しかし、常識的な意見や、深く納得した意見についても一度逆説法で何か言うことができないかを考えることは、視野狭窄を避けることに繋がります。
【漸層法(クライマックス )】
概説:「〇〇は〈弱〉より〈中〉より、それどころか〈強〉よりも▲▲だった」といったように、文章中で、その表現や内容を強めながら語句を繰り返し、非常に強い強調(クライマックスやオチ)をねらう技法。
用例:「ユダヤ教の歴史は、イスラム教はもちろん、キリスト教、さらには仏教よりも長い」「この部屋は私の国、世界、ひいては城である(最後に落ちる)」「彼のやる気は、ペテルギウスや太陽、ひいては白色矮星よりも燃え盛っていた(逆)」
付記:比較の効果を活用する技法は数多いですが、対比効果を重ね合わせることでより強い印象を残すことを狙う技法です。
【諷喩(アレゴリー)】
概説:拡大された隠喩(つまりは例え話、寓話)を用いて、間接的に意図を理解させる表現技能。思考術における「直感ポンプ」と近い役割を果たす。
用例:「彼にも筆の誤りというものがある」「教皇は太陽、皇帝は月」「草原の英雄、蒼き狼の一族は、やがて世界の中心を飲み込んだ」
付記:抽象的な教訓を具体的なストーリー(教訓話)に落とし込むようなイメージです。なお、最後の用例はチンギス=ハンの一族が南宋(中国)を征服したことを表現した例です。
【反語法(アイロニー)】
概説:本意とは反対のことを述べることで、皮肉的な意味を伝える(自省を促す)表現技法。相手の言葉を引用しておうむ返しにする方法と、引用しない方法がある。
用例:「(少し失敗しちゃってね、という発言に対して)少し? 確かに、長い人生で見れば些細ことだ」「(どう見ても失敗しているものを見て)大成功じゃないか!」
付記:アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』などは、皮肉をはじめ、修辞技法の用例が豊富です。
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