《 第19話 デートの誘い 》
その日の放課後。
ボクは春馬と下校していた。となりを歩く春馬はとてもウキウキとした足取りだ。さっきなんてスキップしてた。試験で過去最高の順位だったときも、ここまで喜んでなかった。
明後日の日曜日、桜ヶ丘高校との合コンが決まったからだ。
必ずしもカップル成立するわけじゃないし、上手くいってもまずは連絡先交換からだろうけど、ナンパよりは成功率が高いもんね……。
「いや~、ほんっと楽しみだなっ!」
春馬の嬉しそうな顔を見るのは好きだけど、状況が状況だけに複雑な気分だ。素直には喜べない。
「ボクが合コンに参加してもいいのかな……」
春馬も知っての通り、ボクは女子だ。女子が好きな女子もいるけれど、ボクは男が好き。というか春馬が好きだ。相手が男子だろうと女子だろうと、春馬以外のひとと付き合うつもりはない。
うぬぼれかもしれないけれど、明後日の合コンで成功しちゃったらどうしよ……。
というか、春馬が成功しちゃったらどうしよう……。ほかの女の子にデレデレする春馬なんか見たくないよ……。
幼馴染は負けヒロインって言うけれど、きっとボクと同じように『好きな男の子と一番仲良し』というポジションにあぐらをかいてしまったのだろう。なかなか行動に出ないせいで、いまさら異性としては見てもらえず、ポッと出の女の子に負けちゃうんだ。
まあ最近は幼馴染が勝つラブコメも増えてきたし、ボクにも勝機はあるけど。……参考が漫画というのもどうかと思うけど、いまはわらにもすがりたい気分だ。
頑張れ、世の幼馴染ヒロイン! そして頑張れボク!
「気にするなよ。きっかけは同情心だが、どのみち一番女心に詳しいのは悠里だろ。ほかの奴らだって納得してたじゃねえか」
「それはそうだけど……」
ちなみにイケメン枠は揉めに揉めた。診断サイトに写真を投稿すると顔面偏差値が出るのだけれど、1位が5人いたのだ。当然1位同士で揉めたし、2位以下の男子もなかなか引き下がらなかった。
林くんが顔写真の角度を変えることで偏差値がぐっと上がることに気づき、争いは激化した。
女子を巡って人間関係が悪化するのは、お父さんが懸念していたことだ。いつもは仲良しのクラスメイトが喧嘩する光景は、ボクだって見たくない。
だから枠を増やそうと、ボクは辞退を切り出した。
でも聞き入れてもらえなかった。田中くんいわく『女心に詳しい奴枠は外せない』らしいし、ボクが辞退したところでその枠を巡って争いが続くから。
そんなとき、春馬が画期的な提案をした。
「だいたいさ、クラスメイト全員参加するのに、悠里だけが不参加ってのもおかしいだろ」
そう。合コンにはクラスの男子全員が参加することになったのだ。
そもそも4対4の合コンだし、そんな会場は用意できないだろうし、却下されると思ったけれど、話を聞いて主催者の田中くんも納得した。
春馬の提案は、いわゆる『婚活回転寿司』だ。
お見合いパーティで女性の周りを男性がひとりひとりまわっていくように、相手の女子とひとり1分話して、最終的に気に入られた男子1名が4人目の座を手に入れるのだ。
選ぶのは女子なので、これには男子も納得した。誰が選ばれても恨みっこなしだと固い握手を交わしてた。
ちなみに会場はカラオケ店だ。これは事前に田中くんが決めていた。田中くんは、歌が上手らしいので、自分の特技を活かせる場所を合コン会場に選んだのだ。
それくらいなら主催者特権だし、待機中の男子は歌って待つことができる。小腹が空いたら料理を頼むこともできるため、不満は出なかった。
ボクは男子ということになっている。みんなが納得したのにボクだけ不参加を表明したら……それだけで性別がバレることはないにせよ、疑問を抱かれてしまう。
クラスメイトがどれだけ女子を求めているかは嫌というほど理解した。ボクが女子だとわかれば争いが繰り広げられそうだ。
「こんな機会二度とないし、一緒に参加しようぜっ」
だから春馬もボクが女子だと知りながら、こうして参加を促してるんだ。
「そうだね。行くよ」
「おうっ。明後日はどんな女子が来るんだろうな」
「同い年とは言ってたね。春馬はどんな女子に来てほしいの?」
「そうだな~。話が盛り上がる女子がいいな」
ボクだ。毎日一緒に下校してるけど、いつも話が盛り上がってる。
「あと、できれば帰宅部がいいかな。一緒に過ごす時間が増えるし」
ボクだ。中学ではバドミントン部だったけど、高校では帰宅部を選択した。春馬と過ごす時間が増えたし、いまさら部活に入りたいとは思わない。
「それと髪は短めの女子がいいな。清楚系もいいんだが、やっぱり俺はスポーティな女子のほうが好みだし」
「短いってどれくらい?」
「悠里くらい」
思いきりボクじゃないか!
こんなに条件が一致してるのに、どうしてボクじゃだめなんだろ……なにか重要な条件がミスマッチしてるのかな?
「ほかにない?」
「ほか? そうだな……しいて言えば、ギャップがあるといいな」
「ギャップ……って、どういうの?」
「むっとしてるけど笑顔が可愛いとか、口調が荒いけど可愛いものが好きとか、あとボーイッシュだけどデートのときだけスカートとか」
そ、それだ! スカート! スカートだ!
小学1年の頃に男子にスカートめくりされたのがトラウマで、ボクはズボンばかり穿いている。
トラウマはもう消えたけど、いまさらスカートを穿くのは気恥ずかしく、いまじゃズボンしか持ってない。
最近まで男の子だと思わせていたので、春馬にもスカート姿は見せたことがない。休日遊びに出かけるたびにスカート姿を見せると耐性がついてしまうけど、ここぞというときに――春馬の言うように、デートのときだけスカートを穿けば、ギャップにドキドキしてもらえるかも!
問題は、デートできないことだけど……。デートに誘えば告白しているようなものだし、この状況で告白しても受け入れてもらえるとは思えない。
だけど……ボクは名案を閃いた。
上手くすれば春馬に合コンを辞退させることができる。なんだったら春馬に好きになってもらうことも!
「あ、あのさっ、合コンの前に女子と交流する練習しといたほうがよくない? ……ああいや、ゲームじゃなくてリアルでね」
得意げにスマホを取り出す春馬にそう告げる。春馬のやる気に水を差さないように言わずにおいたけど、それは女子と付き合う参考にはならないよ……。
「そりゃリアルのほうがためにはなるが、身近に女子がいないしな」
やっぱり春馬、ボクを女子として見てくれてないんだ……。
その意識、ぜったいに変えてみせる!
「ボクが相手役になるよ」
「えっ? ……悠里が?」
「うん。女子としてデートの練習台になってあげる」
「それって……俺と悠里がデートするってこと?」
めちゃくちゃ戸惑われてる。
ボクとデートするのは想像すらしてなかったんだ。
「ぜ、ぜったい今後の参考になるから。経験すれば自信に繋がるから。春馬のために力になりたいんだっ!」
「気持ちは嬉しいが……そのデートって、俺たちが普段してるのとは違うのか?」
「いままでは友達として接してたけど、練習では彼女として振る舞うから」
「彼女として……。それ、恥ずかしくないのか? 俺のために一肌脱いでくれるのは嬉しいけどさ、無理だけはするなよ」
「そりゃまあ、恥ずかしくはあるけど……春馬のためだから。だから……デートしてくれる?」
足を止め、じっと瞳を見つめてお願いすると……
春馬は、うなずいてくれた。
「親友が俺のためにそこまで言ってくれたんだ。デートの練習、付き合うよ」
「ほ、ほんとにっ?」
「ああ。もちろん恥ずかしくなったら途中でやめてくれていいから」
「ううん。最後まで頑張る!」
春馬を振り向かせる千載一遇のチャンスだ。ぜったいにときめかせてみせるぞ! そしてボクと付き合いたいって思わせるんだ!
「デートの練習って明日だよな?」
「うん。今日は遅いし、明後日は合コンだもんね。時間が決まったらボクのほうから連絡するからっ」
そうと決まればスカートを買わないと!
話している間に駅にたどりつき、ボクは春馬に手を振って別れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます