第6話 最終話
トイレに向かうマリー。
三回目のタイムリープでいよいよ事件を解決できそうだ。マリーは喜んでいた。
「前回の世界の下校中、モーリス様が言っていた話って……今回の世界でも聞けるかな? その時はモーリス、って呼んでいいのかな……?」
幸せな未来を想像するマリー、その時、背後に気配を感じ振り返る。
「……お前がマリーか?」
「キャーッ!」
目の前には燃え盛る屋敷の前で演説をしていた男。
この長いヒゲを忘れるはずはない。
ピエール・ガブリエルだ。
「おっと!」
ピエールはマリーの手を抑える。
「話は聞かせてもらったよ。このブレスレットを握りしめるとタイムリープが出来るんだって?」
ピエールに手を抑えるつけられるマリー。タイムリープは出来ない。
「お前には死んでもらう! 私自ら、人殺しはなかったが仕方ない。お前を殺し、屋敷を抜け出し戦争を始めよう。お前はあの世から見物しててくれ」
ピエールはナイフを取り出す、その時。
「マリーッ!!」
廊下を走ってきたモーリスがピエールに飛び掛かる。
「モーリス様!」
「チッ!!」
「ピエール! 手を放せ! 許さないぞ!」
「ガキがぁ! 引っ込んでろ!」
ピエールはモーリスにナイフを振り下ろす。
「モーリス様ッ!!!」
ザッ!!
血が飛び散る。
「マ、マリー……?」
「はぁはぁはぁ、手こずらせやがって……」
ピエールは走り去っていく。
モーリスをかばうようナイフに向かっていったマリー。
首から大量の血を流している。
「マリー! おい! マリー!」
「うぅ……モーリス様……大丈夫…ですか?」
薄れゆく意識のマリー。
「マリー! ブレスレットを握るんだ!! 早く!!」
この出血ではマリーは助からない。唯一助かるにはタイムリープしかないだろうとモーリスはマリーの力の抜けた手をブレスレットに持っていく。
「握るんだマリー!!」
モーリスの声は朦朧としたマリーには届かない。
「マリー……頼む! 握ってくれ!」
「モ…-リス…さ…ま…」
「マリー!?」
「愛して……ました……よ……モーリ……ス……」
マリーの手はダランと滑り落ちる。
「うああぁぁぁああ!!!」
マリーの亡骸を抱きしめモーリスは泣いた。
「うそでしょ……マリー……」
駆けつけたアンヌも崩れ落ちる。
ピエールはすぐに屋敷の警備の者に捕まった。
マリーの殺害はもちろん、敵国への武器の密輸の証拠も見つかり死刑は免れないだろう。
武器の密輸も止まり、冷戦状態だった隣国との緊張も徐々に収まっていった。
数日後、マリーの葬儀が執り行われた。
タイムリープのことはみんなは知らないが、この国の窮地を救った彼女の死を国中が悲しんだ。
しかし、葬儀にモーリスの姿は無かった。
マリーの葬儀が行われているその時、男は泣き続けながら街をさまよっていた。
どうしてこうなってしまったのか? やりなおすことは出来ないのか?
マリーのつけていたブレスレットは今、この男が持っている。
ブレスレットを握りしめる。が、もちろんタイムリープなどしない。
「マリー…………」
幼馴染みを、愛する女を失った悲しみに打ちひしがれていた。
『愛してましたよ、モーリス』
彼女の最後の言葉を思い出す。ブレスレットを握る力もなかった彼女が最後に言った言葉を。
「……どうして僕は何も伝えなかったんだ……」
マリーの出会って十数年、ずっとマリーを愛していた。
何度でも伝える時間はあったはずなのに…
自分では身分の違いなど関係ないと言っていたが、自分自身、そんなつまらないことを気にしていたのかもしれない……
何度もブレスレットを握りしめる。
「頼む……もう一度、マリーに……!」
「フォッフォッフォ」
その時、怪しい老婆が駆け寄る。
「……老婆? あなた……まさか……」
男は老婆にすがりつく。
「頼む!! 僕にタイムリープをさせてくれ!!」
「何をやりなおすんじゃ?」
「……僕、何も伝えられてないんですよ……大好きだった人に」
「フォッフォッフォ! 願えばやりなおし放題じゃよ」
老婆は青いブレスレットを差し出す。
「これが最後の1個じゃよ」
ブレスレットを受け取る。
マリーの赤いブレスレットにそっくりな青いブレスレット。
モーリスはブレスレットを腕に通す。その目に涙はない。
「何度だってやりなおしてやる 君と生きる未来のために!」
◆
庶民の私だけが知っている!イケメン貴族が大ピンチ!愛する人のために時空を超える! さかいおさむ @sakai_osamu
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