第5話 大将

「ぅーわ、怖え」

エレベーターで6階に向かう3人。ガコンという音と振動と共にエレベーターが停まった。ブッコローは振動と音にビビって声を出してしまった。何回乗っても怖いものは怖い

「慣れたらちょっと楽しいけど?」

「こんなもんなれる訳ないじゃん。で?大将戦は何仕様なの?」

「いつものスタジオ」

「普段見られないスタジオをそのまま見せようと思ってます」

「確かに。ゆーりんちーにとっては嬉しいかもね。でもそのまま見せるにしては汚いから掃除しないとね。かといって綺麗だと嘘くさいからいい塩梅に小汚くね」

「難しいですね。わかりました」

手元の資料にメモる郁さん。メモるほどでもないんだけどなぁとブッコローは思った。

「じゃあ、いつもの席に座って下さい。このステージでは大平さんと自由研究対決をしてもらいます。大平さん、お願いします」

すると電気が突然消え、ゲーム音楽みたいな曲が流れた。“え!“と思っていたらぼんやりと光るロボットが重たそうに現れた。よく見たLAQで出来たロボットだった。

「ふっふっふ、よく来たなブッコロー。果たして私に勝てるかな?」

「前、見たことあるなぁこれ。わざわざ蓄光バージョンにして作ってくれたんだ。近くで見ると迫力あるなぁ」

「・・・・脱いでいいですか?重い・・・」

「この格好で対決するんじゃないの?」

「動けないから無理です…」

表情を見なくても重たくて疲れているのがわかった。戦う前から倒れられては話にならない

「対戦前から倒れられちゃ困るんでじゃあ脱ぎますか」

pと郁さんが一緒にロボットを外し出した。もう少しロボを楽しみたかったが、中から出てきた汗だくの雅代姐を見てさすがに言うことができなかった

「アレやんないの?」

「?」

「いやー、お客さんで一緒にアレやってくれる人いる?」

わかっていない雅代姐の代わりにpが渋るように返答した。

「p、わかってない。アレはこの人の名物なんだからやらすべってもやんなきゃダメ」

「おー、アレかぁ!!ブッコローと!」

「雅代姐の」

「ワクワク大将せーん!!」

思い出したかと思ったら急に始めるのでブッコローは慌ててしまった。

「では、今からロケット対決を行います」

「あ、ちなみにロケット対決、人体模型組み立て対決、水団子対決の3回対決する予定です。今日はテストなんでロケットのみで」

2人の前にセキス炭酸ソーダを入れてセットしたロケットが置かれた。これを今からハンドルでグルグル回せということだろう。

「疲れないものにしない?」

「大丈夫、一緒に頑張ろう」

対戦相手からエールをもらった。敵なんだか味方なんだか・・・・。しかしコレが有隣堂らしさなんだろうけど。

ハンドルを回すブッコローと雅代姐。発射OKの状態になったころにはブッコローはぐったりしたが雅代姐にいたっては老けて見えた

「じゃあ、いきます。せーの、発射!」

2つのロケットが勢いよく飛び出した。ブッコローのロケットは高く打ち上がりそのまま床に落ち、雅代姐のロケットは向こうの壁に当たって転がった

「勝者、大平さんでーす」

「イエーイ、ありがとう!」

「・・・あの、そもそも何を競うゲームなの?」

「ロケットの飛距離対決」

「えー、飛距離なの?ロケットだから高さ対決だと思ってた。もー、ちゃんと最初に説明してよ」

そういえば説明していなかったという凡ミスにブッコロー以外のスタッフは初めて気が付いた。“大将戦が一番ガチャついてんじゃねーか“とブッコローは呆れてしまった

「・・・こちらのミスということでこの勝負はブッコローの勝ちにしますか」

「そうですね。じゃあ、ブッコローの勝ち!おめでとう」

バツが悪そうな表情の3人から虚しい拍手をもらった。そんなんなら負けのほうがよっぽど清々しい。

「では、聖なる箱を用意します。今までのアイテムを出してください」

雅代姐に言われインク、ガラスペン、キュリアスIRを机の上に並べた。箱、もしかしたら・・・と思ったら一斗缶のようなものが出てきた

「やっぱりこれか、おかもち。聖なる要素が微塵もないんだけど」

「本番ではペイントしてそれっぽくする予定です」

「どうペイントしてもおかもちはおかもちだと思うんだけど。ん?なんか書いてある」

おかもちのホワイトボードに問題が書いてあった。よく見ると文具検定の過去問が書かれていた。

「本番では3問ほど出そうと思っています。今はとりあえず1問で」

「もしくはめっちゃ難しい問題を1問出すってのもいいかも」

「なるほど、検討します」

「で?“問題、シャープペンシルを英語で何という?①シャーペン②エバーペン③メカニカルペンシル④フューチャーペン”。難!」

問題を読んだ後、昔のことを思い出そうと天井を見た。見たことある問題なのは確かだが自分が挑んだ覚えがない。これは岡崎さんと問仁田さんが対決した時の問題だなと思った

「すげー悩んでるけど降参する?」

「する訳ないじゃん。何言ってんのp。多分、よく推理したら解けるはず」

「外したらなんか面白い事言って」

「あんた、また変なこと言って!絶対当ててやる」

ブッコローはじっと問題を見つめた。さっきと違って本気の顔をしている。意を決した表情をした後、ガラスペンで数字を書いた

「たぶんこれであってると思う」

そう言いながら③を書いたキュリアスIRを見せた

「よぉござんすか?では聖なる箱にすべてを入れてください」

雅代姐がおかもちの蓋を持ち上げた。ブッコローは言われた通りに手元にあるアイテムを全部入れた。

「では、当たっているかどうか魔法をかけます。ちちんぷいぷいのプイ!」

雅代姐が蓋を閉めたとたん謎の呪文を唱えた。“古!今時これはないわ”とブッコローは強く思った。言おうかと思ったがマイペースな雅代姐はお構いなしにおかもちの蓋を開けた

「じゃーん、正解です。おめでとうございます!正解したブッコローにはメダルをプレゼントしまーす!」

中に入れたはずのアイテムがすべて消えて、代わりにカラフルな折り紙とリボンで作ったメダルが出てきた。

「大平さん、今日はうまくできましたね。手品を演出してみたんですがどうでさうか?」

「・・・・うん」

郁さんに話を振られたが何か言いにくそうな様子だった

「何か言いたいことあるみたいだけど、何?」

「手品はすごいなと思ったけどメダルが・・・。いや、一生懸命作ったのはわかるよ。色も綺麗だし。ただ、簡単に作ったやつだなってわかるメダルだからすげー安っぽく見える。凝った折り紙なら見栄えがしていいけどコレもらってもなぁ」

「どんなのだったらいいの?」

「凝った折り紙にする。前、YouTubeで紹介した皮でできた折紙で折ったメダルにする。いっそのことさっきのアイテムをもらう。それか別のものにしたら?例えばブッコローのぬいぐるみ。あ、そうそう、岡崎百貨店からずっと引っかかってたんだけどブッコローのぬいぐるみが無いのよ。あれだけステージが忠実に作りこんでいるのになんで無いの?売り切れ?」

その場がシンとなった。誰も何も言わずブッコローをじっと見ていた。異様な雰囲気にブッコローは戸惑ってしまった

「(何?何かまずいこと言った?)」

その時、ブッコローの携帯が鳴った

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