夜は世界が滅びてもう一度生まれる時間だという持論

竜田川高架線

結局終電を逃したのは、取引先の人と飲んでいたからだ。

 深夜残業が光っている。もしくは、夜勤が光っている。

 いつからか、夜景を綺麗だと思えなくなった。

 結局終電を逃したのは、取引先の人と飲んでいたからだ。接待を受けるのもある意味では仕事か。

 

 タクシー代が勿体無く、歩いて帰ることにした。1時間か2時間も歩けば帰れるだろう。

 

 暗いのか明るいのかよくわからない都会の道を歩いていると、何もかもが情けなくなってきた。働いて生きている。だが生きていく意味を考えたときに、その意味がないように思えた。

 いたたまれなくなって、生きるのを辞めようとしたことがあった。怖くなってそれすらも辞めて以来は、生きるのを辞めれないから蠢くだけになった。

 

 汚い川に差し掛かった。

 橋の途中で立ち止まり、真っ黒な水面に反射するビルの光を見る。

 川のコンクリート岸壁は流行りのイルミネーションとやらで青く光っている。

 

 ここから飛んでも、腹壊す程度か

 

「いっそのこと、世界ごと壊ればいいのにな」

 

 そうしたら、仕事も生きることも全てが無意味になって、いっそ楽になれる。

 

 

 ふと気付いたら、岸壁の明かりが消えていた。

 空が暗い。

 夜だから当然といえば当然だが、ビルの光が消えていた。

 

 街灯も消えた。

 

 月明かりと星空だけが残ったと思えば、それさえも、スイッチが切れたかのように消えた。

 

 風も吹かなくなり、寒さを感じない。

 

 地面もなくなって、あたりは真っ暗だ。

 

 どうやら、世界は熱的に死を迎えたらしい。

 宇宙のエネルギーが全て均等になった。

 エネルギーの行き来という意味での「熱」がなくなった。

 

 もう何も無い。

 仕事も、生きることも、自由さえもなくなった。

 でも、なぜ自分という存在はなくなっていないのか。

 なぜ世界が終わってもなお、自分はまだここに居るのか。

 

 何てことだ。

 

 何もない空間の対象性が破れてしまった。

 

 世界が始まってしまった。

 

 そしてまた、真夜中にこの汚いドブ川を眺めては、世界が終わるのを待っている。

 

 どうやら、世界は自分を中心に回っているらしい。

 意味もなく息をしているのも、自分がそうやって世界を回しているからだとでも言うのか。

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夜は世界が滅びてもう一度生まれる時間だという持論 竜田川高架線 @koukasen

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