5月20日⑧:それがうちのモットーだ

木々をかき分けた先に、そこはある


「・・・今年も凄いな」


山を存分に使用した手作りフィールド

その隣に併設されているプレハブがサバゲ部の部室だ


「よお、悠真」

「礼智。今年も凄いな」

「ああ。今年は更に気合をいれている」


同じクラスのサバゲ部員こと三森礼智みもりれいじは、バンダナの下から視線を向けつつ出迎えてくれた

彼とは三年間一緒のクラス

一年の時に「はい、二人組作って〜」と言われた際、余り物同士で二人組を組んでからの付き合いだ

今年はクラス内に俺は廉と尚介が。礼智には冷泉がいるので関わりこそ少なくなってしまっているが、今でも普通に仲がいい部類だと俺は思っている


「今年のサバゲ部の部長は工作部と兼部してた・・・よな?」

「ああ。だから今年は更にグレードアップしてる感じ。フィールド改造の為に俺たちも工作部と兼部しろとか言ってくるんだぜ。どうかしてるだろ」

「それは厄介だな・・・」

「ああ。だから今・・・」

「今?」

「工作部に入れ派VS入りたくない派で戦ってるところ。負けたほうが勝ちチームのいうことを聞く条件でな」

「そういうことまで勝負で決めているのか」

「ああ。些細なことでも後腐れなくゲームで決める。それがうちのモットーだ」


「で、礼智はなんでここに?」

「お前が来ることは知っていたから、あえて人数の多い反対派閥に回ってゲーム参加は保留。お前の出迎え役に立候補したわけだ。感謝しろよ」

「ありがとうな、礼智・・・で、部長は?」

「まだ中だろうな」

「そうか・・・」


そういうことが起きているとは思っていなかった

待つのもありだろう。しかしいつまでかかるかわからない

見送りの時間はしっかり取りたいし・・・だからと言ってサバゲ部はまた後日というわけにもいかない

露代と涼月は同じクラスで予定が把握できやすい為、できる無茶振りだ

けれどここは・・・


「早く帰りたいのか?」

「事情があってな」

「そうか。じゃあ、お前がケリを付けてくるか?」

「・・・へ?」


カメラと引き換えにおもちゃの銃を

インタビュー内容の代わりに、サバイバルゲームのルールを聞かされた俺は、軽く武装をさせられてから、フィールドへと押し出された


・・


旧校舎の空き教室にて


「・・・おや、三森か。また騒がしく・・・ふむ、これはこれは」

「どうしたの、岸上さん」

「お目覚めか。身体は平気かい、白咲君」

「うん。休んだら大分。部屋、貸してもらってありがとう」

「いいんだよ。元々ここは休憩室も兼ねているからね。それよりも動けそうかい?」

「うん。もう大丈夫・・・ここ、使うの?」

「まさか。外に出たら面白いものが見られると三森から連絡があったんだよ」

「三森?」

「三森礼智。うちのクラスのサバゲ部員さ。彼が面白いものというぐらいの代物だ。サバゲ部の方へ行ってみよう」

「う、うん」


岸上さんから連れられて、私は旧校舎から裏手にある山の方へと向かっていく

少し、騒ぎ声が聞こえるな

何かあったのだろうか・・・


「くっそ・・・礼智のヤツ。五十里が来ることは知っていたが、まさか勝負に使ってくるなんざ想定外なんだが!?しかも五十里超早いし!」


ふと、目の前を男の子が文句を言いつつ駆け抜けた

その後ろには、見知った白銀が彼を追う


「すまないな、町田。俺は早く帰りたいんだ。だから頼むよ」

「乱射しながら言う台詞か!?うげっ・・・ヒット」

「・・・町田は落としたし、俺もリタイア。じゃあ早速インタビューお願いします」

「・・・わかったよ。今回は殲滅戦だから、後は頼むわ」

「おー!」

近くにいた他の子に指示を出した後、悠真と町田君?は安全圏への避難の為、こちらの方へ歩いてくる

「・・・お前、本当に未経験?」

「未経験だ。銃の使い方とかルールとか、さっき礼智にレクチャーしてもらったし」

「今度、装備貸すから真面目にやらね?」

「今は色々と忙しいし、それに俺は勝負事が苦手だからな・・・」

「もったいねぇな・・・その運動神経、うちで活用したいわ」

「また機会があれば」

「ああ。その時はいつでも遊びに来い。勝負事じゃなければ、お前はノッてくれるぽいからな。暇な時、また遊ぼう」

「ああ」


知らない男子生徒と話す姿を見て、少しだけ安心した

露代君の時もそうだったけど、学校ではきちんと誰かと話をしたり出来ているらしい

今まであの「もっさり前髪隠し」だったから、女子からは嫌厭されていたようだが・・・男子生徒とは普通に仲良くできているようだ


けれど、楽しそうに話す彼を見て・・・安心というよりは、不満のほうが大きかった

喜ばしいことなのに、悠真にとってもいいことなのに

見ているだけで複雑というのが、正解か

彼が遠くに行くわけでもないのに、どこか遠い存在に感じて、物寂しさを覚えて・・・


「悠真」

「ん?ああ、羽依里。もう平気か?」


無意識に、彼を呼んでしまう

私の声を聞いて、駆けつけてくれる悠真は、町田君に断りをいれてから私の側に来てくれた


「大丈夫だよ、悠真」

「ん」


無意識にベストを掴むと、すぐに手を離せというように悠真の手が私の手に伸びる

それから彼の手は私の手を握りしめ、安心させるように小さく揺らすのだ


「寂しかったのか?」

「そ、そんなことない・・・」

「今は、そういうことにしておこうか」


ふと上を見上げると、安心したように顔を綻ばせた悠真が笑っていた

照れと共に隠した寂しさだって、彼にはお見通しらしい


「五十里、その子は?」

「白咲羽依里。俺の彼女」

「惚気か?死ね」

「ストレートすぎないか?」


彼女と言われたことに対しては、照れより嬉しさの方が勝った

でも、今までは幼馴染が先に来ていたのに・・・今になって彼女が先に来てくれたのはどうしてだろう

悠真の中でも少しずつ、何かが変わっている気配を感じつつ、サバゲ部の取材を終えて今日の部活記録会は終了を迎えた


・・


今日の目的を終えた俺たちは、一度教室へと戻る

そこには・・・


「おかえり、二人共」

「藤乃ちゃん、無事だったんだね」


露代から解放された後の藤乃が椅子に腰掛けて俺たちを出迎えてくれる

まだ残っていたとは。門限のこともあるし、帰っているかと思ったんだが・・・まだ残ってくれていたらしい


「まあね。さ、お二人共。そろそろ帰りましょうや。空港、行くんだろう?」


藤乃が見せてくれたスマホ画面には、なぜか空港行きのバスチケットが往復で三枚分


「・・・藤乃?」

「ついていかせて貰えないかな、と」

「ああ、今日もしかして両親共にいないな?」

「・・・察しが良いね」

「お前はいつもそうだろう」


藤乃が門限を破るということは、それを咎める相手がいないということだ

お父さんはしばらく海外にいると行っていたし、この状況ならお母さんも今日は帰ってこないということ

あいつは今日、一人で留守番なのだ


「・・・どういうこと?」

「・・・藤乃、両親がいない時は家で一人なんだ」

「うんうん」

「あいつ、ああ見えて留守番とか・・・まあ、一人が嫌いなんだよ。なるべく時間ギリギリまで誰かと一緒にいたいんだ」

「なるほど・・・藤乃ちゃん、一緒に来てくれると嬉しいな。お向かいさんとして、挨拶もしたいし」

「ありがとう」


「あと、バス代は・・・夕飯は空港近くで食べていく予定だから、それの奢りでどうだ?足りない分はまた後日」

「勝手にやったことなのに・・・うん、それでいいのなら、それで」

「助かる。じゃあ、早速行こうか」

「うん。藤乃ちゃん」

「うん!」


寂しがり屋も交えて、俺たちは教室を出ていく

今日最後の目的地

普段とは違う帰り道から出る、これまた普段は乗らないような大型バスに乗り込んで向かう先は「暁空港」だ

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