5月20日④:視線の先にある光景だけに集中して
放課後のチャイムが鳴ると同時
クラスメイトの殆どは部活へと向かっていく
もちろん、今日の俺たちも同じように
「じゃあ僕は仕事だから。お先に」
「じゃあな、廉」
「私も今日は帰る。じゃあね、羽依里。気をつけて」
「ありがとう、絵莉ちゃん。お手伝い頑張って」
「俺は補習受けて帰るわ」
「田中先生がやってる希望者勉強会か?頑張るなぁ」
「確実にしたいからな・・・それじゃあ」
「じゃあね、尚介君」
「藤乃さんもそろそろ失礼」
「おいおいおいおいおい、藤乃。逃げるな」
「あぶぅ!」
廉と絵莉、それから尚介とそれぞれ目的地に向かう中、流れで帰ろうと・・・もとい逃げようとする藤乃を捕まえた
残った俺と羽依里、藤乃は部活記録会の初日へと挑んでいく
「今日は演劇部とサバゲ部とマジック研究部、飼育部と畜産部だ」
「おかしいな。最後のは屠殺部でしょ」
「やだなぁ穂月さん。屠殺は過程だよ」
噂をしたらなんとやら
鶏を抱え、朗らかな笑みを浮かべるこの男こそ、畜産部部長の露代天樹
まあ、藤乃が言うのもわかるほど・・・露代はなかなかに狂っている
二年生の時も、こいつにはかなり振り回された
普通にしている時はごくごく普通の朗らかな男だと思う
彼が持つ彼なりの「命の向き合い方」には感心させられる部分もあるから、嫌いではない
ただ、屠殺前の精神的に不安定な状況下のクレイジー言動だけは、心の底から嫌だと思っている
多分、いや間違いないと思うが、今日の部活記録会で俺たちに記録させる「活動」は・・・
「コケッ?」
「・・・おい、露代。一応聞いておくが、今日の記録用で屠殺する子、その子か?」
「うん!一番大きくて毛艶がいい子を選んでいるから、撮影映えすると思うよ!」
「撮影映えを考えられた鶏とかさぁ・・・」
「穂月さんも、切り落とし甲斐がある子を選んできたと思っているから!楽しみにしていてね!」
「ひえっ・・・相変わらずだね」
「まあ、あいつもあいつなりで精一杯なんだろう。あそこまでおかしくならないと屠殺できない状況ってことは」
「愛情を相当込めて育てていたんだろうなぁ・・・」
ひょー・・・と、青ざめた羽依里
流石にこれはまずいと思い、俺と藤乃は必死でフォローをいれていく
「だ、大丈夫だ羽依里。羽依里には見せないから!グロいのは心臓に悪いもんな!」
「うん!私と悠真で撮影してくるから!安心して外で待機してて!」
一応、畜産部は長い歴史を謎に持つ部活であり、設備も他の文化部に比べたらかなり整っている
去年取材した話だと、OBが支援してくれているとのこと
うちの高校は部活の数が膨大だが・・・卒業生の支援が存在する部活は畜産部ぐらいだと言ってもいい
「流石に、露代のメンタルが心配だし・・・先に行くか」
「そうだね。さっさと終わらせて解放してあげないと」
「じゃあ、最初は畜産部と飼育部方面だね。早速向かおうか」
行先が決まった俺たちは、目的地へと向かっていった
・・
校舎を出て、グラウンドを横断していく
「こっち側に来るの、初めてかも」
「機会がないと来ないもんなー」
「だねー。ほら、ついたよ。本日の目的地、畜産部と飼育部の部室があるエリアです!」
校舎裏のエリアには、飼育小屋が存在している
「流石飼育部・・・うさぎとモルモットがいるのは知っていたが、今年はミニブタまで。どこで調達してくるんだよ」
「ブタダケジャネーヨ!」
「よっすす五十里君、藤乃ちゃん!待ってたよ!」
肩に乗せたオウムがバサバサ翼をはためかせて主張をしつつ、その女子生徒は俺たちを出迎えてくれる
「なんだ・・・涼月か。隣のはまさか・・・随分毛艶が良くなっているが・・・」
「そう!あの時の保護オウム!ヨウちゃんです!」
「アオー!ヨウチャン!」
「飼い主探しの時はお世話になったよねぇ〜。結局愛着が湧いちゃって、私が飼っているんだけど」
「別にその程度・・・今日は一人か?」
「他の部員は今日、ここでしばらく保護していた迷い猫ちゃんを飼い主さんのところに送り届けているの。うち、そういう活動も始めたから・・・あ、白咲さんだ!一緒に来てくれたんだね!」
「アオアオ!」
「え、あ・・・あの」
「涼月、羽依里がビビってる。落ち着いてくれ」
謎に興奮する涼月を引き離し、距離を取らせる
ついでに椅子を持って来てもらうように頼み、それに羽依里を座らせた
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
「ごめんね。驚かせて。でも、来てくれるとは思っていなかったから」
「まあ、畜産部込みの日だからねぇ・・・」
「普通避けられるって思う中、こうして来てもらえると嬉しいわけだし、私的には噂の「彼女」とお近づきになる機会でもありますからねぇ」
「アオアオ。イカリ、サカラエナイ、オンナ!」
こいつそんなことまで話すのかよ・・・教えたのか?
いや、こいつは保護したての頃から無駄に賢かった。ドラマとか見せた結果だろう
そうでもないと、こんな言葉遣いを覚えるわけがない
「さて、改めて!私は
「まだ顔を覚えられていないみたいだから言っておく。涼月は俺たちと一緒のクラスだ」
「そうだったんだ・・・ごめんね、まだ覚えきれていなくて」
「仕方ないよ。慣れない生活で大変だっただろうし、身近な面々を覚えるのに精一杯だっただろうから。気にしないで。でもこれからはよろしくね!」
「ありがとう」
「涼月、早速と言いたいところなんだが、露代のメンタルが心配でな・・・先に畜産部を見に行ってもいいだろうか?」
「私としてもそうしてあげてほしいけど、ほら、今天樹君は精神統一中だから。邪魔したら取材、難しくなると思うな」
もしかしなくても、謎に聞こえてくるこの念仏・・・畜産部の精神統一用の音声なのか?
葬式に参列した時ぐらいしか聞かないものだから、正直身の毛がよだつのだが
天樹的には、あれが精神統一のアイテムでいいのか!?
「た、確かに無理そうだな・・・じゃ、じゃあ先に飼育部から。お願いしても?」
「もちろん!」
「ちなみにだが、今日は私用があってな。取材は休み時間の時にお願いできればと思ったりするのだが」
「別に構わないよ。でも、珍しい話だね。外部のお手伝いが予定に入っているのなら、部活記録会とか避けていそうなのに。突発のご予定?」
「そんなところだ。付き合わせて申し訳がないが、後日また時間を貰えると助かるよ」
他の人に今日の予定なんて詳しく伝える必要はない
用事があるから早く帰りたい。それだけでいいと思っていた
涼月が、何かを企む笑みを浮かべるまでは
「なぁんだ。羽依里ちゃん。この後はサプライズデートじゃないらしいよ。残念だね」
「へっ!?」
「・・・サプライズではないが、今日は羽依里のお母さんが海外に戻る日でな。見送りの為に早く切り上げたいんだ」
「なるほど。見送りね。了解。今度お昼一緒でどうかな?天樹君は・・・話題を聞くだけで具合悪くしそうだよね。暇そうな放課後に取材協力するよう、話しておくね」
「助かるよ」
段取りを二人で立てていると、羽依里が俺の背中を優しく叩く
「どうした、羽依里」
「露代君と涼月さんはどういうご関係で?」
「確か二人は付き合っているんだよな?」
「そういうことです!」
「な、なるほど・・・だから色々と」
この二人が噂になったのは去年の文化祭の時だったはず
当時は俺に白い目を向けず、取材に快く応じてくれるいい奴ら程度にしか思っていなかったので、記憶も曖昧だったが・・・ちゃんと合っていたらしい
「さて、五十里君。そろそろ時間も押しているだろうし、格好いい私とヨウちゃんをばちっと撮って貰えるかな!」
「トレー!」
「そうだな。じゃあ一枚」
ファインダー越しに涼月とヨウちゃんを覗き込む
やはり、まだ視界がぐらつく。気分が悪い・・・
「大丈夫だよ、悠真。私が側にいるから・・・視線の先にある光景だけに集中して」
「・・・羽依里」
ふと、腕を掴んで、身体を支えるように羽依里が隣に立ってくれる
気分の悪さがなくなったわけではないけれど
いつもよりは、楽に人物写真が撮れた
そんな気がした
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