5月19日④:・・・ナチュラルに半分

槙乃おじさんたちが帰ってきたのは、ちょうど昼間

お昼ご飯として、お弁当を買ってきてくれた


「流石倉田さん。今日も揚げ物が美味い」

「エビフライさくさく・・・」

「二人共、そこのは馴染みがあるだろ?悠真と羽依里ちゃんに食べさせるって言ったら、オマケで色々貰ったから、今度あったらお礼言っておいてくれ」

「もちろん」

「お礼、ちゃんと言いに行きますね」


槙乃おじさんはテーブルに色々とパックを並べてくれる

その中でも、俺と羽依里の目を引いたのは、五個入りパックの「コロッケ」

これを作っているのは、商店街にある倉田弁当店

小学生の頃の俺と羽依里は、ここのコロッケを二人で買いに行き、半分こをして食べていた


「あ。コロッケだ」

「倉田さんちのコロッケだ」

「そういえば、二人は昔から倉田さんちのコロッケ大好きだよな」

「ああ。ほら、羽依里」

「ありがとう、悠真」

「・・・ナチュラルに半分」

「確かに、言われてみれば」

「そうだね」


父さんにツッコまれるまで、俺たちはいつも通りコロッケを半分こにして互いの皿へ乗せていた

倉田さんちのコロッケは、最初こそ二人でそれぞれ買っていたのだが・・・

夕飯前に食べるおやつコロッケ。子供のお腹には十分すぎるもので、俺と羽依里は当時、夕飯を残し続けて、母さんたちを困らせた事がある


それから、二人でどうするかしっかり考えた

夕飯を残すなら、コロッケを食べるのを禁止します・・・まで言われたし

けれど俺たちはコロッケが好きだったから、食べられなくなるのは嫌だった

だから、俺たちはコロッケを半分にして食べることに決めたのだ


流石に年月が経過した今、半分にする必要性というのは極めて少ない

しかし、この倉田さんのコロッケは一般家庭のコロッケより大きくて、分厚い

半分にしなければ、今の羽依里にはきついと思うから


「いつもこうしていたからな」

「うん、いつも通り。でも悠真、これじゃあ悠真には少なすぎない?」

「ん?」


しかしながら、上手く半分にできていない時というのは結構多かったりする

その時は、俺が小さい方で羽依里が大きい方を食べていた

昔の俺は少食気味だったし、羽依里は元気な時にたくさん食べていたから

ちょうど、互いのニーズを満たしていた


そんなこんなで大きさ程度のことで喧嘩になることはなかったのだが、やはり羽依里としては「半分」じゃないと気になるようだ

羽依里から言われて確認してみる

しかし今日のコロッケはちょうど半分。我ながら綺麗に半分にできていると思うのだが・・・

何か、気になることがあるのだろうか


「羽依里、ちゃんと半分にできているぞ?」

「半分だけど、今の悠真には足りないんじゃないかなって」

「普通に足りないな」


昔は昔。今は今

流石に健康な男子高校生をやっている俺からしたら、好物のコロッケ半分は物足りないどころの話じゃない

なんなら今すぐ倉田さんの店に走って買い足したいぐらいだ

後二つはいけると、個人的に思っている


「でしょう?だから半分はありがたいし、さり気なくもらったけれど、全部食べたら?」

「いや、他にもご飯はあるし、これはこれでいいよ。それに羽依里」

「なに?」

「今の羽依里は、一人でコロッケ全部食べられるのか?」

「・・・自信ないかも」

「今度は羽依里が少食になっちゃったもんな」

「そうだね。それに、揚げ物もあまり食べなくなっちゃったし」

「そう思うと、羽依里は久々のコロッケなのに、一人で丸々一個は食べられないと思ったんだ。倉田さんちのコロッケ、めちゃくちゃでかいし」

「そうだね。多分、無理だと思う」

「倉田さんちのコロッケ、本当に久しぶりなんだからさ。羽依里にも食べてほしくて。半分でも多いなら、もう少し貰うけど」

「そう、だね。もう少し食べてもらえる?」

「もちろんだ」


羽依里はお皿の上で半分のコロッケを更に半分にしていく

二つになったコロッケの一つは、俺の皿に載せられた


「昔と逆だね」

「そうだな」

「改めて思うけど、たくさん食べるようになったね」

「俺も成長期なもので」


これまでのようにいかないのは頭の中で理解できていた

もう「子供じみたこと」だって出来ないこともまた、同じように


「成長期ねぇ・・・もう終わっただろ」

「これでも身長まだ伸びてんだよ、父さん」

「まだ伸びてるのか・・・うわ、俺の身長追い抜かれそう」

「父さん身長どれぐらいだっけ」

「174」

「すまん。もう追い抜いてた」


この前の測定で、178cmあることはわかっている

去年から4cm伸びてるなぁ・・・と思っていたのだが、去年時点で既に父さんと並んでいたらしい。気が付かなかった


「げぇ・・・いつの間にそんなデカくなったのか」

「見てないところでも成長しているもんで」


ふと、父さんに目を向けると・・・嬉しそうに笑っていた

槙乃おじさんも何かを察したような顔で、しみじみとお茶を飲んでいる


身長が伸びた程度で・・・なんて、今は思わない

親目線になれば、わかるものなのだろうか

些細な成長も喜べたりするのだろうか。そこはまだ、分からないな


・・


昼ごはんを食べ終わり、俺は洗い物を担当する

流石に何もしないのは気が引けたし、これぐらいはと思って取り組んでいる

羽依里はその隣で、俺から受け取った食器の水気をタオルで拭いてくれていた


「ゆっくりしていてよかったんだぞ」

「何もしないのは気が引けるから・・・」

「そんなことはないと思うぞ。事情だって、皆理解しているわけだし」

「それでもだよ。できることはしたいでしょう?」

「そう・・・だな。その気持ちはいいことだと思うよ」

「でしょう?」


お皿を慎重に手渡し、彼女がしっかり持ったことを確認してから次の作業に取り掛かる

できることは限られている

体力的な問題のほうが多いけれど、一番大事なのは「やる気」だと思うから

そんな彼女の気持ちは、大事にしていきたい


「・・・あっという間に、大人になるんだな」

「そういうものなんだろう。俺も楽しみだよ、将来が」

「ああ。でもあっという間だからな。今を大事にしろよ、槙乃」

「言われなくても」


その様子を、父さんと槙乃おじさんがしみじみと見守っていたことには、気がつくことなく

俺たちは一仕事を終えた

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