5月4日②:真弘兄さんと慎司兄さんが言っていた
色々な店をまわり、挨拶を済ませていく
出歩けるようになってよかったね、体は平気?無理しないようにね。悠真ちゃん何その怪我!?とか言われつつだ
「これ、持っていきなさい」と皆の厚意でさり気なく持たせてくれた荷物はいつの間にか凄まじい量になっており、羽依里と俺にはもう持ちきれないぐらいになっていた
そんな俺達が一度休憩しようと寄ったのは次の目的地になっていた小倉饅頭店
もう一つの爺ちゃんちであり、父さんと慎司おじさんの実家でもある
母さんの行きつけだったこの小倉饅頭店は爺ちゃん・・・「
来る時は店の方から来いと言われているので、お客さんと同じように店の扉を開けて爺ちゃん家にあがる
そんな俺達を最初に出迎えてくれるのは、この人だ
「あら、悠真君。いらっしゃい」
「こんにちは、
「ゆうまだ!」
「よっ、
店番をしているこの女性は小倉凜花さん。槙乃おじさんの奥さんだ
それから俺を見て嬉しそうにはしゃぐこのチビッ子は小倉慎介。俺の従弟にあたる槙乃おじさんの息子。今年で五歳だったかな
「ゆうま。うでなんかすごいな」
「おう。ロケットパンチ打てるようになった」
「悠真、嘘つかない」
「悠真君、腕折れてるの?大丈夫?」
「平気。もう少しで治る予定だから。おい、慎介、叩くな。ちょっと響く」
「ロケットパンチ!」
「ほら、つまらない嘘を吐くからこうなる。子供は純粋だから何でも信じちゃうんだよ?」
「今理解した・・・」
「ほら慎介。悠真お兄ちゃんのロケットパンチは今不調だから。時間をかけてのんびり直さないといけないんだよ。叩いたりしたら、逆に壊れちゃうよ。もうロケットパンチ見れなくなるかも!」
「それは大変だ!」
「でしょー?」
凜花さんは不貞腐れている慎介を宥めながら優しく言い聞かせてくれる
次第に彼も理解したのか、どんどん笑顔が戻ってきた
「ゆうま、たたいてごめん」
「いや、俺も変なこと言ったし・・・」
「ゆっくりなおして、ロケットパンチな?楽しみに待っとく」
「・・・ロケットパンチ打つことは確定かよ」
「練習しないとね」
羽依里が隣で楽しそうに笑う
・・・まあ、嘘が始まりなのだから全ての責任は俺にある
ロケットパンチ装置、藤乃と尚介に頼んで工作するのを手伝ってもらおうかな
二人共こういうの好きだし・・・嬉々として手伝ってくれそうだ
「母さん、店先が・・・あれ、悠真来てたのか。隣は・・・もしかして羽依里ちゃんか?」
「そうだよ。槙乃おじさん」
「お父さん、隣の子のこと知ってるの?」
「ああ。母さんと慎介は初めて会うからな。こちら、白咲羽依里ちゃん。悠真の幼馴染」
「こんにちは」
凜花さんは県外からここに嫁いできてくれた人で、その時期はちょうど羽依里の入院時期と重なっている
その為、慎介はもちろん凜花さんも羽依里と初対面になったのだ
「羽依里ちゃんは悠真がこれだから、色々な部分で軌道修正してもらっていてな。世話になりっぱなしなんだよ・・・」
「へえ・・・」
「今まで入院してたって真弘兄さんと慎司兄さんから言っていたけど・・・もう出歩いていいのか?」
「うん。自宅療養に切り替わった。今は白咲のご両親海外だろ。家に一人ってわけにもいかないから、うちで一緒に暮らしてる」
「自宅療養?」
「今まで羽依里ちゃんは入院してたんだ」
「ああ。だから会ったことなかったのか。病気?」
「はい。まだ完治はしていないのですが・・・」
「そっか。無理しないようにね。悠真君。手伝えることあったら言ってね。送迎ぐらい余裕だから!」
「よゆう、だぜ」
「助かるよ、凜花さん」
「お心遣い、ありがとうございます」
「なんだ、真弘のところの可愛くない上にデカイ孫が来たのか」
「可愛くないとデカイは余計だろ、爺ちゃん」
「朝と慎介は可愛いんだが、お前だけはどうしても可愛いと思えないんだ・・・」
「酷くないかそれ!?」
俺たちが話しているのを聞きつけてやってきた爺ちゃんは余計なセリフを交えつつ俺たちを出迎えてくれる
大丈夫、冗談だとわかっているから
・・・冗談だよな?
「いやぁ悠真。冗談きついぜ。お前自分が可愛くて小さいとか思ってるのか?」
「それは羽依里に当てはまるワードだと思っている」
「わかってるじゃねえか。じゃあ早くその可愛くて小さな孫を作ってくれ。曾孫でもいいぞ」
「俺まだ十七歳なんだが!てか羽依里いる前でそんなセクハラ会話するなエロジジイ!」
まだまだ衰えを感じさせない動きで俺の攻撃を交わす爺ちゃんと、呆れ返っている槙乃おじさん
それと笑顔のままきっちり慎介の耳をガードしている凜花さん。教育の優しい仕様だ
爺ちゃんのエロジジイっぷりは今も健在のようだ
昔は止める人がいたのだが・・・今は誰も止められない暴走エロジジイ
・・・慎司おじさんがいたらどうにかなるんだがな。これ以上続けられても困るし、どうしたものか
「悠真」
「どうした羽依里。今は爺ちゃんの」
「・・・私は、その、お孫さんには小さい頃からなる気でいるし、その曾孫も・・・小さい頃に言ってたでしょう?三人は考えてるから。おじいさんに気にしなくていいよって言ってあげて?」
「羽依里さああああああん!?」
まさか今このタイミングで投下されると思っていなかった言葉に俺だけでなく槙乃おじさんも困惑している
凜花さんも笑顔で平常心を保っていると見せかけて全然だ。耳を真っ赤にして動揺している
「頑張って元気になるね、悠真」
「そういう問題じゃないんだよ!だっ・・・」
「だ?」
「な、なんでもない・・・」
これがつい数日前まで大好きと一言いうだけで緊張していた女の子の発言だろうか
もう色々と吹っ飛んでいる気がするんだが
「じ、爺ちゃん!もうこの話は終わりにしよう!槙乃おじさん、野菜とか食べるだろ。ここに来るまでに貰ったんだ。持って帰っても誰も調理できないから三人で食べてくれ!」
「ああ。ありがとう。親父は抜きで食べておくな」
「え」
俺たちへと送られたものを譲るのは申し訳ないが、家に持って帰っても誰も作る人がいない
なんせ俺も羽依里も朝も料理ができないから!
そんな最悪環境よりも、凜花さんがしっかり調理してくれる環境のほうが野菜も魚も喜ぶだろう
・・・美味しく調理されるんだぞ!
「それと、ちょっと、居間借りる。婆ちゃんに線香上げてから出発するよ」
「ああ。親父は俺が説教しておくから・・・ゆっくりしてくれ」
「ありがとう」
少し話したお陰で普段の冷静さを取り戻せたような気がする
・・・羽依里にも、一応話をしておこうか
「羽依里、居間に行こう」
「うん」
店から自宅に上がり、廊下を進んで庭が見える居間に足をすすめる
そこには、おじさんたちの私物の他に小さな仏壇が一つ置かれている
「久しぶり、婆ちゃん」
羽依里と並んで座り、お線香と挨拶を済ませる
目を閉じて思い出す昔の光景
そう。俺と婆ちゃんのある話
そして、俺が羽依里を好きになった日の記憶が頭の中で回り始めた
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