5月3日:・・・前は自分でしてね。流石に、だから

ゴールデンウィーク二日目も同じく課題消化の一日

昨日と今日で半分以上終えられた。あともう少し

あの量なら、最終日付近に終わらせる事ができるだろう

明日と明後日ぐらいは・・・のんびりできそう


「ふう・・・」


湯船に浸かって明日のことを考える

明日は悠真が買い物に行こうと誘ってくれた

土岐山商店街の皆が、私に会いたがっていたから・・・お使いも兼ねて行ってみようと


「楽しみだなぁ・・・」


朝ちゃんが勧めてくれたアロマランプ風呂・・・とてもリラックス出来てしまう

難点をあげるなら、お風呂場の電気を消さないと雰囲気がでないことだが・・・まあこれはこれでいいだろう


しかしなぜか先程電気がつけられた。間違えてつけたのかな?

そう呑気に考えていると、お風呂のドアが開かれる

なんで誰も声をかけないんだろうと思ったが、その先にいた人物とセリフで大体のことは察することが出来た


「・・・朝のやつ、なんで今風呂に入れって。作業中だったのに」

「へ?」

「・・・へ?」


無言のまま、互いと目を合わせる

私は湯船で全身が隠れているし、悠真も肝心なところは腕で隠れているので大丈夫といえば大丈夫だが・・・ってそうではなく!


「朝!お前な!」

「悠真ストップ!ストップ!おばさんたち来ちゃうし、それに見えちゃうから動かないで!」

「あ、ああ・・・わかった。上がったら教えてくれ」

「その間、どうしてるの?」

「服、着直すよ」


軽い感じでいうが、今の彼の右腕は折れている

固定された片腕が使えない今、服を着るのはかなり苦戦していることはこの三日で理解したし、できればもうそんな面倒をしなくていいようにしてあげたい

それに、ちゃんと髪とか体とか洗えたりもしていないのではないかと思うし・・・

少し恥ずかしいけれど、そんなことよりも優先させるべき事がある


「面倒でしょう?片腕じゃちゃんと洗えないところもあるだろうし、だから、その・・・そのまま、入ってきても大丈夫だから」

「・・・いいのか?」

「大丈夫」


自分でも少し大胆に行ったと思うが、悠真はきちんと風呂場に足を踏み入れて椅子に腰掛けてくれる


「じゃあ、洗おうか」

「ああ。頼む」

「・・・前は自分でしてね。流石に、だから」

「わかってるよ」

「腕はどこまで洗っていいの?」

「肩の近くと脇下ぐらいかな・・・後は水が入るかもだから」

「じゃあ流す時も気をつけないとね」


「ありがとう。ごめんな、朝の企みに巻き込まれた上に、洗うのも手伝ってもらって」

「いいってば。今まで、どうしてたの?」

「一人で、どうにか」

「手、回ってなかったでしょ?」

「まあ・・・朝から母さんに頭だけ洗ってもらってたりしたから髪は大丈夫だろうけど・・・」

「もう。悠真はきちんと人に頼ることを覚えたほうがいいと思う。怪我をしているんだから尚更・・・」

「肝に命じておく」

「確かに、これはなかなかに頼りにくいことかもだけど・・・臭いとか噂されるよりは遥かにマシじゃない?」

「そうだな・・・ごもっともなご意見だ」


背中を洗い終えた私は、残った前部分をやってもらうためにタオルを彼に手渡す

その間に、頭を軽く洗い始めた


「・・・治るまで、一緒に入る?」

「それは流石に・・・」

「そうだよね。自分でも流石に踏み込みすぎたと思ったし・・・」

「けど、気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも、もうすぐギプス外れる予定だし、もう少し一人でどうにかしてみる」

「無理しない程度にね。きつい時は、頼ってくれていいから」

「助かるよ・・・でも、頼るったって今回みたいに?」

「・・・私が服を着た状態で背中だけ洗いに行くから」

「そ、それもそうか・・・」


最後に水を流した後、石鹸が残っていないことを確認して、先に私はお風呂から上がろうとする

今までは義務というか使命感があったので耐えられたが・・・なくなってしまえば耐えきれる自信はない


「もう上がるのか?湯冷めしてないか?目を逸らしておくから、湯船に入ったら・・・」

「平気。大丈夫だから。後は一人で大丈夫?」

「平気だ。色々と助かったよ」


見ないようにあえて視線をそらしながらお礼を言ってくれている

私も同じように、見ないように扉を前にして話を続けた


「服は自分で着られる?」

「大丈夫。結構簡単なんだぞ・・・下着以外」

「流石にそれは手伝いにくい・・・」

「わかってる。けど、それをクリアしたら後は楽に着られる。安心してくれ」

「それなら大丈夫かな。じゃあ、また後で。それと」

「?」

「今回のことは、内緒でお願いします・・・やっぱり、恥ずかしいので」

「ああ。朝に何か聞かれたら、一人で入ったって言うから」


内緒の取り決めをした後、私はお風呂から出て、洗面所に立つ

近くにあったバスタオルを取り、それを体にかけた


「・・・緊張した」


いや、本当は緊張の言葉で済むようなレベルではなかった

恥ずかしかった

とっても、恥ずかしかった

自分でも何言ってるんだって思うし何やってるんだって思うし!


「部屋に戻って一人、のんびりしておこう・・・」


頭の熱を取り去るために、先程の記憶をきちんと奥深くに収納するために

・・・でも


「でも、あのお腹の傷・・・なんなんだろう」


洗う時に見た大きな背中

・・・しかしそれ以上に注目してしまったのが、左横腹に刻まれた大きな傷だった

私はそれを一度も見たことがない・・・怪我をしたことすら初めて知ったほどだ

何があったのか、本人に聞きたいけれど


「・・・きちんと話してくれるかな」


話せないこと、話したくないこと

隠しておくべきと判断したこと、隠しておかないといけないこと

人間誰しもそんな事がたくさんあると思う


悠真にとって、あの傷は私に話せないことかもしれない

けれど、それでも私は知りたい

私が忘れている過去のことも、私が学校にいなかった数年間のことも

きちんと知った上で、すべてを受け止めて、彼の隣を歩いていきたいのだ


・・


一方お風呂場にて


「・・・羽依里、着痩せするタイプだったんだな」


腕は細枝のように細く、強く握れば折れてしまいそうな不安もあるレベル

体も浴槽でほとんど隠れていたが・・・少し細すぎるのではないかと思ったほどだ

元々食べたいタイプだし、仕方はないが・・・もう少したくさん食べてほしい

元気な体は元気な食事からな部分もあると思うし・・・


けれど、けれど俺が注目してしまったのはそこではない

そんな細い体についている、大きくて愛らしい白桃のような・・・


「あー・・・やべ、思い出しただけで鼻血出そう」


俺だって年頃だ。ましてや相手は長年思い続けていた女の子

いつもは丈の長いスカートに隠された足が露出しているのも新鮮だった

人間の体の部位でどこが好きかと問われたら俺は迷わず即答するだろう

胸と太ももが同じぐらい大好きです、と


身長が低いのに、その胸は特上

本人はかなり気にしているようだが、俺はそれも彼女の良さだと思っている

むしろアレは包容力のデカさを示していると思う

それに、マシュマロみたい柔らかいんだよな・・・あれ。顔を埋めた感想だが


何もかも、俺の理想黄金比率なそれを持ち合わせているの白咲羽依里

・・・全部が好みすぎて参っちゃうな


「・・・目をそらしてるふりして、鏡越しにジロジロ見てたなんて死んでも言えないな」


これは墓場まで持っていこう。そうしよう

それからもしばらくは風呂に浸かり、理性を取り戻し続ける

そんな簡単に失う理性を取り戻すのは時間が結構かかり・・・取り戻す頃には一時間ほど風呂に入っているなんて、俺にしては珍しい長風呂になっていた


そんな事を考えているせいで、自分の隠し事が羽依里へバレたなんて全く考えていなかった

体を洗う時に、間違いなく見ることになった左脇腹の傷


話したくないことを話さなければいけなくなった事実は色欲と煩悩だらけの思考を羽依里に向けていた罰とも言えるだろう

いつか、必ず羽依里に俺の八月の、夏休みに起きたあの事故の事を話さないといけなくなったことに今の俺は気がついていない

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