4月9日①:好きな人、金髪の子が・・・好きだから
新学期の翌日
授業がだんだん始まる中、悠真はあることに対して非常にソワソワしていた
「は、羽依里・・・」
「何?」
「・・・一人で、着替えられるか?ちゃんとジャージ着れるか?チャックの閉め方わかるか?本当に大丈夫なのか?」
「余計なお世話だよ・・・。一人で着替えられるんだから」
「でも、今朝もボタン一つズレてたし」
今朝の出来事を真顔で指摘してくる悠真を少し睨みながら反論を返しておく
「あれは寝ぼけてただけ!」
「・・・うっそ」
「・・・・嘘じゃないもん」
「・・・嘘じゃ、ないみたいだな。ごめん。ちゃんと一人でできるもんな」
大丈夫。ボタンぐらい止められる
ところで、チャックってなんだったかな・・・?なんて、聞くのは流石にこのタイミングでは「なし」なような気がする
「ジャージ、吹田に預けておいたから後で受け取れよ」
「ありがとう。でもそれぐらい一人で」
「羽依里はこうして出かけるのが久しぶりだろう?まずは歩くことに集中する。先生も言ってたじゃないか」
「それはそれでわかるけど、あまりにも過保護すぎない?」
「それでもだ」
悠真がそういうと同時に、昼休みが終わるチャイムが鳴る
五時間目の準備をしないといけない時間だ
「さて。お次は体育だ。男女別だから、ちゃんと体育館にいくんだぞ」
「失礼すぎるよ、悠真。グラウンドにはいかないよ。ちゃんと絵莉ちゃんに案内してもらうんだから!」
「そう言いつつもたまに羽依里は抜けてるからな・・・」
「羽依里、着替え行こう。早くいかないと、五十里の着替えシーンなんてアホほど得もないシーン見る羽目になる」
「得なしとはなんだ。これでもそれなりに・・・・」
「いこ、羽依里」
「うん」
それなりに・・・その言葉になぜか引っかかりながら、絵莉ちゃんと共に教室を出て女子更衣室へと向かっていく
その道のりの中、絵莉ちゃんは絶えず話をしてくれた
「五十里が手を回してくれたみたいでさ、昼休みなんで体育の先生に呼び出されたんだろーって思ったら、見学レポート用紙渡された。はい、これ」
「ありがとう。わざわざごめんね」
「いいって。羽依里は体弱いんだから階段の上り下りとかきついでしょ。これぐらいさせてよ。今後も私とか、藤乃を頼ってくれていいからさ」
「ありがとう。色々とお願いしてもいいかな」
「当然よ。ほら、あそこが三年女子更衣室。二組からは少し距離があるけど、大丈夫?」
「大丈夫。平気だよ」
「まあ、着替え終わったら少し休んでなよ。更衣室の中に椅子あるし。少し休んだだけでも違うだろうから」
そう言いながら絵莉ちゃんは女子更衣室の扉を開けて、私を中に入れてくれる
絵莉ちゃんは、見た目はキャピキャピ?というか、いかにも明るい感じの女の子だが、しっかり者で、色々と気を遣ってくれて、安心感を与えてくれる優しい子という印象を抱く
以前にもそんな感じの子と友達だった記憶がある・・・とても気遣いが上手で、自分より人を優先させるような優しい子
名前はなんだったか・・・記憶力には自信がある方だと思っていたが、長年の病院生活で、元気だった頃の記憶が曖昧らしい
思い出せないその子にはとても申し訳ないな・・・
それから絵莉ちゃんはロッカーが二つ続けて空いているところを探してくれる
端の方にあったロッカーを陣取って私たちは制服から体操服に着替え始めた
「羽依里さ、寒くない?」
「え?まあ、今の季節だと少し薄寒いかな」
校則とかで定められていると思い、基本の制服だけで昨日と今日を過ごしていた
カーディガンとか、セーターとか着れたら助かるのだが、どうなんだろう
絵莉ちゃんは知っているだろうか・・・?
「うちの高校、カーティガンとかセーターとか自由だから。藤乃も昨日着てたでしょ。名前と同じ藤色のカーデ」
「ああ。うん・・・確かに」
記憶を少しだけ辿り、昨日の藤乃ちゃんの格好を思い出す
今日は家の用事で学校をお休みらしい藤乃ちゃん。昨日は確かに藤色のカーディガンを着ていた
「その辺りの校則緩いからさ。寒いなら着てきな?怒られないし、もし怒られても五十里が生徒指導に文句言いに行くか、学校が認める品を買いに走るだろうから」
「それは助かるね・・・ありがとう、教えてくれて」
「これぐらいいいって。あ。お礼と言ってはなんだけど、こんな重要なこと教えなかった五十里叩いといて」
「ふふっ、わかった。後で叩いておくね」
後のことを、悠真以外と話すのは久しぶりで、話が広がっていく
最後まで着替え終え、私はジャージを羽織っているだけの状態となった
・・・チャックってどうつけるんだっけ
「どうしたの、羽依里」
「あー・・・どう閉めたかなって思って」
「病院じゃ、チャックついてる服とか着ないもんね。仕方ない。これをこうしてさ・・・こーんな感じ」
絵莉ちゃんは私のジャージに触れて、私に見えるように位置を調整しながらチャックを閉めてくれる
ああ。そう・・・こんな感じで閉めるんだった
そう思い出しながら、私は彼女の綺麗に染め上げた、私とは違うタイプの金髪に視界を移す
地毛はどうやら茶髪らしい
「覚えた?」
「覚えた!ありがとう、絵莉ちゃん」
「いいよ。後」
「後?」
「五十里には黙っておくから。安心してよ」
不敵な笑みを浮かべる絵莉ちゃんは、どうやら先ほどの私と悠真の会話を聞いていたらしい
少し、恥ずかしいけど・・・
「内緒とか、久しぶり・・・」
「あ、喜ぶのそっち?」
「喜ぶのこっち!」
誰かと共有する内緒は本当に久しぶりだ
悠真とやってもいいのだが、隠す相手もいない
親に隠すようなことは、親にすぐにバレる。そんな感じだから、内緒もまた久しぶりになってしまったのだ
「羽依里の久しぶりを一つ奪ったぜ・・・」
なぜか満足そうな絵莉ちゃん
その光景に笑いながら、私たちはゆっくりと廊下を進んでいく
「そういえば、絵莉ちゃん」
「どうしたの?」
「絵莉ちゃんって、なんで金髪なのかなって。学校とか、染めるの禁止とか・・・大丈夫?」
「うちの高校その辺りは緩いから大丈夫。染めて怒られるとかはないよ。で、なんで金髪なのかって部分なんだけど・・・」
絵莉ちゃんは、頬を仄かに赤くしながら視線を逸らし教えてくれる
「私、好きな人いるんだ」
「!」
まさかまさか。これは恋話というやつではないか?
悠真との間では絶対にないような、女の子同士の会話!
少し興奮気味で、聞いてしまう。まさか、こんな唐突に始まるとは思っていなかったから
「で、出会いは!」
「・・・小学校。校外学習の班行動中に迷子になった時、迎えに来てくれた。そこで、惚れたというか・・・でも」
「でも?」
「絶対、振り向いてもらえないから。い・・・その人には、死んでも想い続けたいって思うぐらい大事な人がいるからさ。もう諦めてる。そのはずなのに」
絵莉ちゃんは数歩進んで、階段の踊り場に立つ
そしてまだ階段を降りきっていない私を見上げながら、まるで手が届かないものを見るように苦しそうに笑うのだ
「好きな人、金髪の子が・・・好きだから。私が金髪に染めてるのは、まだ、諦めてきれてないからだと思う。本当に未練だらけ」
「ほわぁ・・・」
まるで漫画で読んだ展開!こういうのいい!
けど、話の内容からしたら絵莉ちゃんが報われないのかな・・・こんなにいい子なのに
「絵莉ちゃん」
「どうしたの、羽依里」
「・・・そんな絵莉ちゃんのいいところがわからないクソ野郎。そうそうに見捨てた方がいいと思う」
「・・・ぷっ!ありがと、羽依里。なんか面白いや」
「あ。ごめんね。好きな人なのに、貶しちゃって・・・」
「いいのいいの。ほら羽依里。早くしないと遅れるよ」
「う、うん・・・」
私は絵莉ちゃんに手をひかれ、グラウンドへ向かっていく
少しだけ、彼女の一面を知ったそんな一時だった
・・
体操着に着替え終わり、俺たちは体育館へ向かう
そんな中、異様に鼻がむず痒くなり、俺は・・・
「ヘックション!?」
廊下中に響くほどの大きなくしゃみをしてしまった
周囲の視線が一斉にこちらに向けられて、少し恥ずかしい
「どうしたの悠真。風邪?」
「噂話でもされてんじゃね。「協調性ねえわあいつー」とか」
「うるせ・・・」
俺はポケットの中に入れていたハンカチで鼻をすする
「花粉もワンチャン?」
「いや。そろそろ「変わり目風邪」のターンじゃね」
「あ。それも可能性あるね」
廉と尚介のおふざけを横に、俺は校庭を窓から見下ろす
そこには、移動中の羽依里と吹田がいた
「あ、絵莉ちゃんと白咲さんだ」
「女子は仲良しになるの早いなぁ。な、悠真」
「・・・元より仲良しだよ、あいつらは」
「え?」
「ほら、無駄話してる場合じゃないぞ。早くしないと、今年は寺田だから、遅れたら体育館外十周の刑だぞ」
「ゲェ・・・そうだった。早く行こうか」
二人の疑問に答えることなく、俺たちは体育館へ向かっていく
でもまあ、久々に二人がああして話しているのを見た気がする
そんな光景に俺も喜びを覚えながら、慌てて廊下を早足に歩く尚介と廉の後を早足でついて行った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます