巨人よ動き出せ! 人々の希望のために! 邪悪なスギを滅ぼすために!

 とあるワイドショー番組による街頭インタビュー。スギ滅会の活動について。


〇ショッピングモールで買い物中の四十代女性


「将来世代に負債を残すなとか色々言われてるじゃないですか。スギの林こそ将来世代に残しちゃいけないですよ。あたしも子ども二人いるんで、子どもたちの将来のためにもあの人たちには頑張ってもらわないと。スギ花粉のない日本を下の世代にプレゼントしてあげたいです」


片瀬江ノ島かたせえのしまの東浜に流鏑馬を見に来た三十代女性


「いやーもうどんどんやっちゃってほしいですハックシュン! ごめんなさいちょっとくしゃみがひどくて……もうホントなんとかしてほしいです。今日なんかせっかく気合いれておめかししてきたのに、こんな鼻水ズルズルじゃあ台無しですよ。え? 何で気合いれたかって? 推しが来てるんですよ。今日来てる女性の射手いてなんですけど、この方がもうチョーかっこよくて最高なんですハクシュンッ!」


〇家電量販店から出てきた三十代男性


「あのロングホーン? でしたっけ? あれかっこいいですよねー。息子も気に入ってるみたいで、テレビにかじりついて応援してますよ。「がんばえー」って。僕も実は来月発売のロングホーンのプラモ予約しちゃいました。へへっ」


〇トゲトゲ付き肩パッドを装備した、モヒカンヘアーの二十代男性


「今年の花粉キツすぎて世紀末っすよ世紀末。「202X年、世界はスギ花粉に包まれた」っていうナレーション聞こえてきそうっす。あーもう死ぬほど目がかゆい! スギ滅会っすか? よく知らないっすけど、スギの木を切ってくれるんすよね? オレもナカマ引き連れて、スギ林を消毒してやりてえっす。あーでも近づいたら花粉にやられて目玉破裂しちゃいますね。あべしっ! ってな感じで」


*****


 PB-04 ロングホーン。PBとはPollen Buster(花粉を滅ぼす者)の略称であり、04という型番は四番目の試作機が量産化されたことを表している。「ロングホーン」という愛称は頭頂部の通信用アンテナが長い一本角のように見えることと、カミキリムシの英語名「Long horned beetle(ロングホーンドビートル)」に由来している。なぜカミキリムシかといえば、カミキリムシの仲間にはスギを食害する種類が存在しているからだ。


 25機のロングホーンがスギ滅会に納入されると、事前に操縦訓練を受けていたスギ滅会メンバーがこれを駆り、各地のスギ林に乗り込んだ。


 ウィンウィンウィィィィィィン!


 ロングホーンは専用の巨大チェーンソーを振るい、バタバタとスギを切り倒していく。人力では骨が折れる伐採作業も、巨大人型重機にかかればお茶の子さいさいだ。


 バキバキバキバキ……


 バキバキバキバキ……


 バキバキバキバキ……


 バキバキバキバキ……


 機械の人形によって、悪魔の翼は折られてゆく。回転刃のうなりは、暴虐を罰する雷霆らいていだ。天を目指して伸びる緑は、傲慢と悪徳の報いを受けて滅ぼされるのだ。


 巨人は歩く。巨人はる。人々の祈りと怒りを背負って、黙々とスギを伐り続ける。


 スギ伐採後の作業にも、このロングホーンは役に立った。切り倒したスギや残った切株は、放置するとシロアリやスズメバチの住処になってしまうため、すみやかな撤去が求められる。人力では骨が折れるこれらの作業も、ロングホーンのパワーがあれば楽勝だ。ロングホーンは切ったスギを軽々と持ち上げてトラックに積み込み、専用の大型シャベルを振るって切株を掘り起こしていった。


 こうして、ロングホーンは各地のスギ林で活躍した。が、課題もある。納入が間に合ったロングホーンは、たった25機にすぎないということだ。これっぽっちの機体数で全国各地のスギ林を滅ぼすのは無理な話である。


 もちろん、スギ滅会はロングホーン作戦と並行して、別の計画も進めていた。彼らは持てる人脈を活かして、より過激な作戦に打って出た。

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