スギを切れ! 燃やせ! あらゆる手段でスギを滅ぼせ!

 とあるワイドショー番組による街頭インタビュー。今年の花粉症について。


〇ゴーグルにマスク姿の二十代男性


「いやーもうひどすぎです。外に出るのがつらくなってリモートワークできる職場に転職したんですけど、区役所まで書類取りにいかないといけなくて……そしたらホラ、マスクが鼻水でビショビショ。ここまで来るのにマスク三回変えました。首もかゆくてしょうがないし最悪です。スギ花粉を滅ぼす会? いいじゃないですかどんどんやってください。全部燃やしちゃってくださいよホントに」


〇白い化学防護服姿の四十代主婦


「最近はもうこの服ないと外に出られないのよー。近所に回覧板回しに行くにも、これ着てかないとダメだわ。メンドくさくてしょうがないけど、今年の花粉はひどいからねぇ……アンタ、まだ花粉症じゃないの? 気をつけなさいよー今年は花粉症なっちゃう人結構いるから。うちの息子も今年は花粉症なって、息子の部屋に丸めたティッシュの山ができてるわ」


〇西洋甲冑姿で馬に跨る七十代男性


「ズルルッ! ゴクッ! ホントは家にこもってたいんだけどさ、ホラ、オレみたいな年寄りが引きこもってたらあっという間に足が萎えちまうだろ? だからこうしてジジババ軍団の集まりにえっちらおっちら行ってるわけだブエックショーイ!!! ああ、すまんすまんズルルッ! え? ナニをしに行くかって? なんか町内会の連中がスギ林に火をかけに行くって言うからよ、こうしてオレもフル装備してきたんブァックショーイ!」


*****


 ドローン作戦。それは「火炎放射器を搭載したドローンを飛ばしてスギ林を焼き払う」というシンプルな作戦だった。これなら屋内から遠隔で陣頭指揮をとることができ、人間がスギ林に入るという無謀を冒さずに済む。さっそくスギ滅会のメンバーはドローンを引っ提げて山間部に向かった。


 さて、結果はどうだったか……というと、効果が全くないわけではなかった。が、いかんせん費用対効果が悪すぎた。ドローンには火炎放射器の燃料を少ししか積めず、頻繁にドローンを回収して補給を行わねばならなかったのだ。これでは時間がかかりすぎて非効率極まりない。しかも夜のスギ林は暗すぎてドローン墜落の危険があるため、明るい時間帯のうちにドローンを往復させなければならなかった。


 問題は他にもあった。春の陽気で外気温が上がり、スギが根から水分を吸い上げていたのだ。しかも悪いことに、今年の三月は天気が崩れがちで、急に曇ったり雨が降ったり、といったことがしばしばあった。これによってスギが燃えにくくなっており、火を放っても思うように燃え広がってくれなかった。


 こうしてスギ滅会が手をこまねいている間にも、悪魔の化身たるスギは猛毒の花粉を風に乗せてまき散らし、日本国民を恐怖のどん底に突き落とした。

 薬局では連日のように抗アレルギー薬が売れ、あっという間にメーカー在庫切れとなった。しかしこれらの薬はしょせん対症療法でしかなく、加えて眠気をもたらす副作用もある。それに今年の飛散量は多すぎて、薬を服用しても焼け石に水だ。さらには花粉症の過酷さに目をつけた悪質な転売屋による買い占めも横行し、全国的な社会問題として各所で報じられた。


 まさに阿鼻叫喚、屍山血河の花粉地獄だ。


 ドローン作戦に見切りをつけたスギ滅会。まだ、彼らは手札を有している。これしきのことで諦める根性タマではなかったし、考えなしでもなかった。


 次の手札は、某大手重工業メーカーの地下ドックに眠っていた。


*****


 今から十年前。スギ滅会の前身にあたる「スギ花粉症対策協議会」が設立された。この立ち上げメンバーの一人が、某大手重工業メーカーの人間だった。


 彼は将来的なスギ林との全面戦争を予見し、自社でプロジェクトを立ち上げる。それは「高さ20メートルの有人操縦式人型重機に、スギを伐採させる」というものだった。

 社内では冗談めかして「ガンダム計画」「V作戦」などと呼ばれたこのプロジェクト。それは水面下で着々と進行していた。そして人型重機は「スギ林駆除法」の制定に合わせて正式量産型がロールアウトされた。


 スギ伐採用人型重機。名付けて「PB-04 ロングホーン」。始動のときである。

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