スギを燃やしたり切りまくったりする

武州人也

スギ花粉が憎い!

「今年のスギ花粉飛散量は過去十年間で最大!」


 その予報の通り、この年は前年とは比べ物にならない量のスギ花粉が日本列島を襲った。金のある者はスギ花粉を避けるべく、北海道や沖縄、あるいは外国へと足早に逃亡した。しかし大多数の国民にそんな真似はできない。青空を覆い尽くす黄色に、人々の顔は恐怖に歪んだ。


 悪魔の針葉樹がもたらす猛毒の花粉が、列島を惨禍の大地へと作り替えた。人々の目は赤珊瑚を埋め込んだかのように赤くなり、「ぶぇっくしょーい!」というくしゃみの音が列島中にこだまする。そのさまはまさしく無間地獄。虹色に輝く花粉光環こうかんは、告死天使の後光だ。


 こうして……スギ花粉を浴び続けた国民の怒りは、とうとう頂点に達した。


 これは怒れる花粉症患者による、スギとの戦いの記録である。


*****


 スギを恨む日本国民によってつくられた組織「スギ花粉を滅ぼす会」、通称スギ滅会は政治に働きかけ、「スギ林駆除法」を可決させた。これは地権者の意向にかかわらず、第三者によるスギ林伐採を可能とする法律だ。表面上は花粉症被害者の数に政治が押し切られた形に見えたが、医療費の削減を進めて財政負担を軽くしたい政治側の思惑も存在していただろう。


 スギ林根絶の法的根拠を作り上げたスギ滅会は公的資金を投入され、スギ対策の実働部隊として活動することとなった。彼らは重武装で身を固め、意気揚々と各地のスギ林に乗り込んでいった。

 とはいえこの時期は三月初旬。スギ花粉全盛の季節である。生身でスギ林に近づけば、情け容赦のない花粉攻撃で死屍累々だ。そのため彼らは地域の宿屋や民泊、公民館などに陣を敷き、そこで指揮をとることとした。


 こうして、スギ滅会とスギ林の間で、戦いの火ぶたが切って落とされた。スギ滅会による作戦、名付けて「ドローン大作戦」が始動する。

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