第50話
そうして一月ほど忙しく執務をこなしていた。
隣国はどうやら破壊された建物の復旧に向けて動いているらしい。そして改めて協定を結びなおしたいと使者がきていたのだ。こちらに大分有利な内容にしたのは言うまでもないわね。そして隣国との紛争のおかげと言っていいのかは分からないけれど、国が一つに纏まりつつある。
国民に向けて首謀者の処刑など迅速な対応をしたおかげか国民からの支持も高まっているし、女王クレア陛下の手腕だと側近達が宣伝してくれているようだ。
「クレア陛下、婚約者の決定は明日です。準備は宜しいでしょうか?」
「さ、宰相っ。どうしましょうっ。もう、明日なのねっ」
忙しさのあまりに忘れていたとは言えない。でも、宰相にはバレていたようだ。だから声をかけたに違いない。
――クレア、慌てずとももう決まっておるのであろう?
は、はいっ。でも、グラン様、彼は良い王配となりますか?
――うむ。そうだな。奴ならクレアの足枷にはならんだろう。クレアに相応しいかは今後の仕事次第だと思うがな。
ふふっ。グラン様のお墨付きを頂いてホッと一安心です。
今まで婚約者候補の話を一切側近にも話していなかったので誰を選ぶのか皆分からないようで一部では賭け事の対象になっているらしい。明日は花の祭典という王都での祭り。
「クレア陛下、おはようございます。さぁ、式までに準備をしなければいけません」
マヤは朝の早い時間に私を起こして侍女達と共に準備を進める。湯浴みを終えてドレスに着替えながら今日のイベントの内容確認、会場の最終確認書に目を通す。もちろん今日の午後、王宮の舞踏会会場で最後に行われる私の婚約者の決定がメインイベントになっている。
あぁ、胃が痛いわっ。
悩みすぎて倒れてしまいそう。
候補者の人達はとても優しく、素敵だったわ。言葉を交わして人柄を知ってしまえば情も生まれる。一人だけを選ぶ罪悪感に心が痛む。
「クレア様、溜息ばかり吐いていると幸せが逃げてしまいますよ」
「……そうね。マリルの言う通りね」
「クレア様には幸せになっていただかなければなりません。いえ、私達が陰ながら支え、幸せにします。どうか、思うままに行動なさって下さい」
「ふふっ。嬉しいわっ。みんな、あ、有難うっ」
マリルの言葉に侍女たちも頷いている。私はいい侍女や従者を持ったわ。
――侍女や従者だけではないだろう?クレアの頑張りが皆の気持ちを変えたのだ。
そう言われるとなんだかこそばゆいです。
――クレア、よくここまで頑張ったな。
有難うございます。これもグラン様のお陰です。感謝してもしきれません。
――儂は何もしておらんぞ?あぁ、出来るなら孫が早くみたいものだ。
ふふっ。そうですね。沢山産まねばなりませんね。
――そうだぞ?まだまだやらねばならぬ事が沢山ある。ここでゆっくりしている場合ではない。
頑張りますわ。
「陛下、準備はできましたか?舞踏会の会場では皆、クレア陛下の事を今か、今かと待っております」
「ロダ、今いくわ」
私は会場に入ると、既に婚約者候補者四名も用意された席に座っていた。そして音楽と共に様々なイベントが行われ、会場のボルテージも徐々に上がっていく。
最高潮に達した所で
「これより、クレア女王陛下の婚約者を決定致します」
宰相の言葉に集まった人々は大きな歓声が上がる。四人の前に立ち、声を掛けて選ばれた婚約者とダンスを踊る。みんなが見ている前で自分から声を掛けるのは緊張で手が震えそうになる。けれど、誰にも頼れない。
ドキドキして涙が出てしまいそう。
一歩、また一歩とゆっくりと歩き始める。
緊張と恥ずかしさで足も震えてきたわ。
そして、彼の前に立った。
「ローガン様、私と生涯のパートナーとしてダンスを踊っていただけますか?」
「もちろんです。クレア陛下。生涯、貴女一人だけを慈しみ尽くすと誓います」
ローガン様はそう言うと私の手を取り、前へと歩いていく。
一際大きな歓声が上がった後、音楽が流れ始めた。ローガン様と一礼をしてダンスが始まった。ローガン様は微笑みながら曲に合わせて私をリードしてくれる。ダンスホールに照らし出された私達。ローガン様と視線が合うと、とても気恥ずかしく思う。ふわふわした高揚感の中、ローガン様が囁く。
「クレア様、私を選んでくれて有難うございます。他の候補者を選ぶのかと思っていました」
「きっとローガン様は生涯の良き伴侶になってくれると思ったの」
「クレア様に後悔はさせません。貴方で良かったと言わせてみせます」
「嬉しいわ」
ダンス中の会話も照れながらもなんとか一曲を踊り終えた。すると宰相が私達の前に立ち、会場にいる人達に伝えた。
「ベイリー公爵家子息がクレア陛下の婚約者と決定致しました。皆様拍手でお祝い下さい。先の辛い事件により婚姻を早めるよう皆様の声も頂いております。婚姻は一年後を予定しておりましたが、急ではございますが半年後に早めて結婚式を行う事になります。どうか温かく二人を見守ってやってください」
会場中割れんばかりの拍手が鳴り響いた。そしておめでとうと言葉が響き渡る。ドキドキと心臓が高鳴りっぱなしでどうにかなってしまいそう。
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