第49話

 翌日、報告を受けた宰相やロダ、側近たちのアーサー様への評価は元々低いが、地の底まで落ちた事はい言うまでもない。いずれ愛妾を迎えるとしても婚約もしていないうちからの複数を侍らせているのは貴族としてもやはり許されない事らしい。


 私は久々の休日を満喫したわ。ベッドで本を読んで部屋から出ない。侍女たちも私のぐーたら加減に苦笑するけれど、理解はしてくれているので何も言わないらしい。




 休日をのんびり過ごした後に待っていたのは、そう、人形の記憶上映会。


 嫌がる私を笑顔で会議室に送り届けてくれる護衛騎士達。渋々部屋に入ると、皆が待っていましたとばかりに席に着いていた。

 会議室は人形を中心とした放射線状に席が設けられていたわ。どうやら皆、隣国の様子を見たかったようで立ち見をするほど人で溢れている。


私は部屋の一番端、と言いたかったけれど人形の横に何故か席が設けられていて不満を漏らしながら席に着いた。


「えー、クレア陛下も来られたようですし、始めさせていただきます。今回の隣国でのクレア様の活躍は凄いものがありました。先に見た私は興奮しっぱなしです。何度でも見たい!「早く写せー!!」」


 フェルトが興奮気味に話をしている横で騎士から野次が飛んできた。フェルトはもっと話をしたかったようだが仕方がないなぁと咳ばらいを一つすると、ベイカーは頷き、人形に向けて詠唱を始めた。


 この場にはローガン様もアスター様もしっかりと席を確保していた。婚約者候補達に自分のした事を見られるなんて恥ずかしい事この上ない。


羞恥心で一杯だわ。


 暫くするとカーテンが閉められ部屋が薄暗くなった。


人形の上部に大きく浮かび上がった場景。


 どうやら隣国に到着した時から上映するようだ。側妃が叫んでいる声も小さいが入っている。何故か私が話す言葉が一番大きく聞こえてくる。まぁ、人形を使っていたのが私だから仕方がないけれども。偶にフェルトが解説を入れると、その度に会議室から唸り声や賞賛の声が聞こえて居た堪れない。最後にナイフで兵達をなぎ倒していく場面になると驚嘆の声となっていた。


 皆、殺戮の映像に気分を悪くしないのか不思議に思っていたけれど、どうやら事前に注意喚起があり、不安な者はぼやけて見えるようにする工夫や精神耐性を高くしておくなど魔導士に魔法を掛けてもらっていたようだ。団長達は魔法が掛かっていなかったわ。



 そうして上映が終わると、ワイワイガヤガヤと話をしながら部屋を退室する人達。残念ながら団長や大臣、宰相などの重要ポストに就いている方々はこの映像を元に今後の我が国の対策を練るようでそのまま会議になだれ込む形となった。


副団長のアスター様は退室間際に私の所まで来て声を掛けてくれたわ。


「クレア様の勇姿を拝見できてとても嬉しかったです。やはりクレア様は素晴らしい。詰所に戻ったら騎士達に話して聞かせます」と微笑み礼をして帰っていった。


ベイカーはというと、「上映会は大成功だったな。やっぱりクレアはこうでなくちゃ。格好良かったぞ。またファンが増えるかもな」と言って人形を持って部屋を出ていった。


人形はまだ改善の余地があるらしく研究に使うらしい。


 そしてローガン様は特に話をした訳ではないけれど、目が合うと照れたような仕草をしながらも手を振ってくれている。彼は宰相と一緒にこのまま会議に参加する事になっている。


そして会議の冒頭はやはり私への感想。先陣に立ち、仲間を守る様に心打たれたとかどうとか。


穴があったら入りたい。


そして議題に上がったのはやはり隣国の魔法の質だった。


――やはり我が国には結界があるおかげだろうな。

 グラン様もそう思われますか?他国も同じような結界を張れば魔力が戻るのでしょうか?


――どうであろうな。国を囲う程の結界を張ることは出来ないだろうがな。我が国でも民と協力して結界を張ったのだ。ラグノアの民がすべて隣国へ移動し、協力して張る事は現実的に不可能だ。

 それもそうですね。出来たとしても我が国の魔導士全員が魔力を使って王都を囲う程度でしょうね。


――まぁ協力をすることは無いだろうから気にしなくてもよいな。


 そうしてこの日の会議は議題を出しあい、各担当が持ち帰り策を練る事になった。せっかくの休み明けでリフレッシュしたはずなのにこの精神の削られ方は辛いわ。

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