第42話マルタナヤール国⭐︎読み飛ばしても構いません⭐︎

 私達が転移してきた場所に到着すると既に零師団と魔導士団はみんな戻ってきていた。点呼を取ると全員揃っているみたい。


「け、怪我は無いかしら?帰るわよ?」


 私はまた呪文を唱え始める。長いのが困るのよね。詠唱は途中で止められないし、その間は隙が生じるからね。やはり護衛兵士達がぐるりと私達の周りを取り囲んでいる。剣で切ろうと向かってくるのを魔導士達が魔法で応戦している。


密集している分、零の動きが悪くなるので分が悪い。私は詠唱し終えてからベイカーへと魔法陣を託す。


「ベイカー、フェルト。魔力を込めたわ。足りない部分の魔力はみんなで補ってね。先に帰って頂戴」


「……わかった。無理すんなよ」


「えぇ。では行って」


私はそうして陣からふわりと浮かび出る。


「さて、あと少しだけ私が相手をしましょう」


 カクカクと動く人形に兵士達が驚いているが、たかが人形だろうとあまり気にする様子はないようだ。氷の粒を無数に出して陣に攻撃をしようとしている兵士達に浴びせる。


「ふふっ。人形だからって何も出来ないと思っているのかしら?中には魔法使いもいるようだけれど。少し私の相手をしてもらうわ」


 ベイカー達が魔力を足しているので足元の淡い光が広がり始めている。陣からはみ出せないから零や魔導士が怪我をしてしまっているかもしれない。国境では救護班がいたはずだからすぐに対処してくれると思う。


「実戦で使ったことの無い魔法が沢山あるのよね」


 私は気を取り直して一つの魔法陣を空中に浮かび上がらせた。その魔法陣はグルグルと高速で回り始める。指で、と言いたい所だけれど人形なので上手く動かせず真っすぐ進むしか命令出来なかったのが残念な所。どうやら他の魔法も同じことがいえるかもしれない。


 魔法陣は人形の頭よりも少し高い位置から下へ向かいながらスパッと進み、そこにいた兵士達を半分にしていった。


「ふふっ。前回は騎士達の防衛戦だったけれど、今回は本番ね。モラン達に見せて上げられないのが残念だわ」


 ギャーッと兵士たちは声を上げる。私は腕を上げて、陣の周りにぐるりと炎の壁で取り囲んだ。これで敵国兵士からの物理攻撃を阻めるわ。


「陛下っ!熱いですよ!!?蒸し焼きじゃないですか」


零の一人が文句を言ってくる。守られるのが不満なようだ。


「まぁ大丈夫よ。準備出来たようね。……ではまた後でね」


 私が手をパキパキと振るのが見えるかどうか。彼等は国境付近へと転移していった。


ラグノア側に転移が出来ているといいわね。


 さて、防衛戦をする前に終わってしまった感が否めないが、グレイシア人形を回収されるのは困るので隙を突いて逃げるか、自爆するか。すると人形の足が切られていることに気づく。


一人の魔法使いがどうやら後ろから魔法を使ったようだ。


「あら、貴方、褒めてもいいわ。我が国の補助魔導士になる?魔導士になるには厳しいかもしれないけれど、どうかしら?」


魔法使いは答える事無く私に火魔法をぶつけてきた。


「あらら。熱いわ?多分。遊ぶのはそろそろおしまいにするわ」


 ジュウジュウと焼け始めたので水魔法で相殺する。あぁぁ。折角の人形がホラーになってしまたわ。魔法使いはその後も風魔法で人形を切ろうとしているけれど、魔法で相殺していく。


私は人の頭程度まで浮かび、私の身体を覆うほどの小さなナイフを無数に浮かび上がらせ、放射状にぶつけていく。真っすぐにしか飛ばせないのは仕方がない。


「それでは皆様、さようなら」


 割れたガラスの隙間から人形はすっと出て国境へ向かって飛んでいく。小さい身体なのでそれほど魔力は使用しないけれど、時間が掛かってしまうのは仕方がない。


一時間程高速で飛んで森の中で休憩する。これを何度か繰り返してようやく国境が見えてきた。国境で戦闘があったようには見えない。


どうやら団員達はラグノア国側にちゃんと転移ができたみたい。よかったわ。


 暫く飛んでいくと、二つ目の村を出た辺りで王都方向に向かっている馬車列を見つけた。私は先頭車両にヒョイッと顔を覗かせると、フェルト達が見えた。


「いたいた!お帰りなさい」


……彼等の顔が引きつっているわ。何故かしら??


――クレア、その姿、一度確認する方がよいぞ? 

 !!? 


「へ、陛下……。そのお姿は一体」


 そうだった。遊んでいて焼かれてしまっていたわ。焼かれた人形が馬車の幌からひょっこり顔を出せばホラーに違いない。


「焼かれたわ。人形を自爆させてもよかったのだけれど、拾い集めて研究されるのも面倒だから持って帰ってきた。魔力も残り少ないからこのまま連れ帰って頂戴」


「畏まりました」


「あぁ、後、怪我した人は大丈夫?」


「もちろんです。すぐに駆けつけて騎士団の救護班より手当を受けたので心配いりません」


「良かったわ。では切るわね」


……無事に皆帰還する事が出来た。


私は人形の魔力源を切り会議室の椅子に深く背を預けた。

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