第41話 マルタナヤール国⭐︎飛ばしても構いません⭐︎
「着いたぞ、各班散れ!合図と共に行動だ」
チュイン団長の言葉に零師団と魔導士団の二人一組になり、姿隠しの魔法を使い、班が一斉に動き出す。ベイカーはグレイシア人形を持ち、二人の団長と共にシュルヴェステル陛下の元へと急いだ。
もちろん抱えて歩きたくないと言わんばかりにフェルトは死体を魔法で引きずるように連れている。
「君たちは何者だ!」
警備を任されているであろう男が声を掛けてきた。
「我々はラグノア国の者だ。すぐにシュルヴェステル陛下に会わせろ」
チュイン団長がそう言って紋章を見せると、男は『す、すぐに確認してまいります』と走り伝えにいったようだ。ベイカー達もその方向へと歩いて進む。各班から続々と配置に就きましたとフェルト団長に連絡が届きはじめている。どうやらシュルヴェステル陛下は側妃達と中庭でお茶をしているようだ。近くにいた従者を呼びよせ案内をしてもらう。
中庭に出ると、陛下は側妃達と戯れていたようだが、チュイン達を見て手を止める。
「何者だ」
シュルヴェステル陛下の前で立ち止まった。
「ごきげんよう。シュルヴェステル陛下。お楽しみの所申し訳ありませんわ。私、ラグノア国、女王のクレアと申します」
グレイシア人形がカタカタと動き話し始める。その様子を見ていた側妃達は気味悪がっているようだ。
「ラグノア国が何用だ?」
「あらっ?……舐めた真似をしてくれたな。そんなに我が国が欲しかったのか?」
そう言うと、フェルトは魔法で引きずってきたヤワン元王子の遺体を側妃たちの前に投げた。側妃達はその死体を見て悲鳴を上げ、倒れる者もいる中、一人、死体に抱きつきヤワン、ヤワン、と無き縋る側妃がいた。
「ほぉ、お前がそいつの母親か。ラグノア国で晒した後、持ってきてやったぞ?感謝して欲しいものだな」
シュルヴェステル陛下はグレイシア人形を睨みつける。どうやら護衛達も中庭に集まってきたようだ。グラン様はシュルヴェステル陛下と側妃達に動きを止める魔法を唱えた。
私達を捕らえようとしていた護衛達の手が止まる。
「私達を攻撃したら即こいつらを殺す事になるが良いのか?」
そう言っていると、チュインがナイフを投げた。ナイフは陛下の頬を掠めて後ろの何かに突き刺さった。ドサリと音がすると同時に血を流し倒れた兵が姿を現わした。影が攻撃しようとしていたようだ。
「我々には通じない事がまだ分からんのか?……フェルト」
グラン様が一言フェルトに声を掛けると、フェルトは無数の氷の矢を出現させてその場にいる護衛兵士全てに攻撃を与え、倒していった。それ同時にフェルトが合図をしたようで魔導士達が次々と施設を破壊する音が聞こえる。
「脆いな」
「差がありすぎて話になりませんね。これは戦闘ではなく蹂躙と言った方が良さそうです」
チュインが楽しそうに言うと、フェルトも同意している。
「過ぎたる欲は身を亡ぼす。覚えておけ」
グラン様はほんの少しの魔力と威圧をシュルヴェステル陛下に放ちながら魔法契約書をベイカーのポケットからスッと取り出した。
「サインを。これ以上被害が広がらない間にした方がいいぞ?」
差し出した魔法契約書にはラグノア国の王には逆らわない。今後一切ラグノア国への攻撃は行わない。奴隷をラグノア国に持ち込ませない。攻撃の意思を出した時やラグノア国王の意に反する事をした瞬間に王家に連なる全ての血筋の者の命を神に捧げる。と書かれている。
「馬鹿なっ!?一族全て死ぬのか!?」
シュルヴェステル陛下は驚愕しているようだ。
「簡単な事だろう?今すぐ根絶やしにしてもいいくらいだ」
どうやら人形の私が何も出来ないと思っているようなフシがある。強いのはフェルトとチュインだけだと。馬鹿にしているわ。グレイシア人形は今グラン様が操っているからね。
私ほど優しくないし容赦はしない。
サインをしないシュルヴェステル陛下に痺れを切らし、グラン様が浮き上がり、震えて腰を抜かしていた側妃達を蔦魔法で捕まえ、締め上げる。
「早くせぬとこの者達の命は無いが?」
それでもサインを渋っている。蔦を締め上げると、側妃達は苦しそうに助けを求めて声を上げる。
「なら、仕方がないな」
第一側妃と思われる女の首をもぎ取る。自分の足元に落ちてきた首を見て顔色を無くすシュルヴェステル陛下。
「助けてっ。陛下。助けてくださいませっ」
けたたましく叫びだす側妃達。
「自分の首が飛ぶ方がいいのか?なんならお前を殺して第一王子にサインをさせてもいいぞ?あぁ、このままなら一族というより国が無くなる方が早いかもな」
幾つかの建物が音と共に沈んでいるのも分かる。シュルヴェステル陛下は震えながら魔法契約にサインをした。
「ふむ。では我々は攻撃を止め、国へ戻るとする。我々がこの国を消すことは容易い。それをしなかったのは我々が平和に暮らすことを望んでいるのだ。今までも、これからも、だ。それを脅かすなら一切容赦しない。覚えておけ」
グレイシア人形はベイカーの腕に飛び込んだ。もちろん私とグラン様は入れ替わってね。
「さぁ、帰りましょう。フェルト、彼らに指示を出して頂戴」
私達は元居た場所に戻るために陛下に背を向けて歩き出す。
「……許さない……」
そう聞こえたと思った瞬間兵士の剣がベイカーの背中へと向かってきた。が、寸前で念のために纏わせていた結界により弾かれた。
「やっぱり馬鹿しかいないのかしらっ。さっき魔法契約をしたばかりなのにねっ。まぁ、いいわ。今回限りは見逃してあげるわ。感謝しなさい」
私はそう言ったが、ベイカーは切りかかった側妃の額に向けて氷の玉を打った。ドサリと倒れたようだが、チュイン達は気にする様子もなくまた歩き始めた。
「ベイカーっ。ごめんねっ。怖かったでしょう?」
「フッ。クレアが助けてくれただろう?早く帰って城も結界を作り直さないとな」
「そ、そうねっ。早く帰らないとねっ」
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