第40話
「陛下、揃いましたので会議を始めたいと思います。今回の奴隷取引の件については皆も知っていると思う。そしてその取引に乗じて隣国は我が国を奴隷工場にしようと企んでいた。マルタナヤール国は謝罪文と共に今回の首謀者である第四王子のヤワンを廃嫡し、こちらへ引き渡してきた。ここまで問題は無かったのだが、先ほど謁見の間でヤワン元王子達が陛下へ攻撃を行った。隣で書状を読み上げる兵士もヤワン元王子を縄で捕まえていた兵士も止める事をせず。これは宣戦布告ではなかろうか。これからの我が国の対応を考えていきたい。」
宰相が厳しい口調で言うと、宣戦布告という言葉に皆が反応したようだ。騎士団長達は相手を黙らせるため武力を使えばいいと意見がでた。けれど、立地条件を考え騎士団を動かすのはリスクが高いと反対意見が出た。輸出入に関税を掛けてはどうか、取引停止にすればよいと意見も出た。確かにこれも行うべき事項だが、決定打に欠けるのだ。
「クレア陛下、陛下のお考えはどうでしょうか?」
色々と意見が出た後、宰相が私に意見を聞いてきた。
「私の考えとしては、我が国が今後狙われないように隣国を叩いておくべきだと思っている。マルタナヤール国と接している国のうち奴隷制度が無い国は二国、ジョベール国とリルクヴィスト国。その二国に書状を出しておこうと思う。マルタナヤール国にはこちらに歯向かう気力が無くなるまで叩くわ。後はその二国がどうするかは二国次第ね」
そのままマルタナヤール国の弱っている所を攻めるか、足元を見て関税を変更するのか。隣国が無くなっても我が国としては問題はない。大臣や団長達は頷いている。どうやら反対意見はないようだ。
「どう武力を行使しようと思っておりますか?」
「そうね、ここは零師団と魔導士団にお願いしようと思っている。辛い仕事になるけれどいいかしら?」
「ようやく我が零師団全員が活躍する時が。暇を持て余しておりました。いつでも準備出来ております」
「魔導士団の士気は高く、我らも準備出来ております。是非私達にも活躍の場を頂ければ幸いです」
フェルトもチュインも頷いてくれている。
――零師団員と魔導士達なら数時間で王都など簡単に落とせるだろう。
やはりそう思いますよね。年々魔法が使えなくなっている世界では私達の国だけが異質ですもの。全てを奴隷にやらせて自分たちは遊んで暮らす、そんな国が発展しているとは思えません。
「零師団と魔導士団が動く事は分かりましたが、移動はどうなさるおつもりですか?」
「そうね、騎士団員の魔力を借りて転移させるわ。フェルトはグレイシア人形を持って行ってね?帰りはグレイシア人形で転移するけれど、魔力が足りない場合は国境付近までの転移になると思う。国境で騎士団を待機させるからそこまでなんとか帰ってきてほしいのだけれど?」
フェルトは魔力の算盤を頭で展開している様子。どこまで可能なのか、成功率について考えているのだろう。
「帰りについては零師団の魔力を使えば国に入れる程の距離までは伸ばせそうですね。大丈夫だと思います」
その言葉にチュインも頷いている。そして隣国の城内部の地図を広げて主要な攻撃対象施設をチェックしていく。勿論反撃の可能性も考えて兵力などの数や配備している場所など全ての事を考慮していかなければならない。
明日、彼等の処刑をし、一週間ほど晒した後、隣国へ書状と一緒に持っていく事になった。
ジョベール国とリルクヴィスト国には会議の後すぐに外交官に密書を持たせてすぐに発たせた。会議を終えた関係者達は険しい表情で自分達の部署へと戻り、対応を協議しているようだ。夜中まで城の明かりは消える事はなかった。
翌日はヤワンの処刑を行った。
私はグレイシア人形で処刑を見届ける事にした。ヤワン元王子はこんな事になるはずじゃなかった。私は騙されただけだ、助けてくれと何度も大きな声で叫んでいた。最後の最後まで抵抗した後、首を切り離され他の兵士達と共に広場の一角に晒された。
残念ながら石を投げる者はいてもヤワン元王子を助けようという声は上がらなかった。
まぁ、それは当たり前よね。
そうして遺体を晒している間にジョペール国とリルクヴィスト国から返信があり、今回のマルタナヤール国への攻撃は目を瞑るとあった。根回しもしっかりと行わなければね。毎日朝から晩まで会議、そして会議。絶対に失敗があってはならない。そうして一週間があっという間に過ぎ去った。遺体を回収し、城の騎士団訓練場へと集まった。
今回参加する魔導士団員と零師団員、第二、三騎士団員、と各団長達が整列している。もちろん魔導士であるベイカーも参加している。
「これよりマルタナヤール国へ出陣となる。みな、無事で戻って来ることを祈っている」
そう言うと私はベイカーにグレイシア人形を渡す。
「ベイカー、生きて帰ってきてね。フェルト、書状を。チュイン、魔導士達を守ってね」
「確かに受け承りました。では行ってまいります」
「勿論です。零師団が動くのです。皆無傷で帰ってくること間違いなしですよ」
チュインは微笑んでいる。
――クレア、魔法陣を展開するぞ。
グラン様の声で私は数歩後ろへ下がる。
「では、これより転移陣の展開。騎士達は私に魔力を」
徐々に騎士達から魔力が集まり始める。それと同時に私は魔導士達の足元に魔法陣を浮かび上がらせた。目標はマルタナヤールの王宮広間。私は長い呪文を唱え、彼等を送り出した。
「……行ってしまいましたね。では私達は私達で出来る事をしていきましょう」
裏切者が出ない事を祈りつつ、私は会議室へと向かう。
「宰相、第七騎士団はそろそろ国境付近へ到着した頃かしら?」
「えぇ。既に到着しております。物々しい雰囲気に隣国の国境を守る兵士達も騒ぎ出した様子だと報告がきております」
「時間が勝負ね」
後は彼等に任せるしかない。
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