第15話

「クレア陛下、お待ちしておりました。ナーヤ・メグレをちょうど連れてきた所です」


宰相が執務室へ入って来たのを見計らったように彼を連れて執務室へと入ってきた。


「陛下に挨拶を」


 宰相がそう促すと、ナーヤ・メグレは一歩前に出て私達に挨拶をする。珍しく彼はカッチリと制服を着ている。


「私、ナーヤ・メグレと申します。この度クレア陛下の側近になりました事を恐悦至極に存じます。ヨロシクネ☆」


ナーヤはニパッと笑顔でそう言うとロダやイクセル、ミカルに向かって投げキッスをする。もちろんロダ達はドン引きしているようだ。


 そうなの、ナーヤは女のような仕草をするのよね。そうそうこの感じ。久々に見たわ。


「ナーヤ、これから側近として宜しく頼みます」


「もちろんよ☆」


 ナーヤは男の中の男なのだが、敵を欺くためなのかわざと女のような仕草をしているちょっと変わった人。奥さんはこの国には珍しい元女騎士だったはず。仲睦まじいのは貴族の中でも有名なのだとか。


私やベイカーは昔から腹黒と呼んでいるわ。



 そうして残りの時間私は執務を、二人はナーヤに仕事を教えるために時間を取った。一気に側近が三人も増えると仕事が減り心にも余裕が生まれてくる。本当に良かったわ。


――後は婚約者候補選びだな。

 うぅっ、頭が痛い。


――優秀な者が側近に加わったのだ、夫は自分の好みの男を選んでも良いと思うがな。    

 そうですね。けれど、私の好みよりも子を生んでからも安心して政務を任せる事が出来る人がよいと思うのです。


――まぁ、そうだろうな。こればかりは儂がどうのこうのと言うよりクレアがじっくりと選ぶ方が良いな。

 グラン様が決めた王配が一番良いような気もしますが。


――ククッ、どうであろうな。





「クレア陛下。本日の予定ですが、本日は執務と午後から市井視察になっております。視察は城外ですがどうされますか?」


「……そうね。グレイシア人形を持ってきて頂戴。視察には参加するわっ」


「グレイシア、人形でございますか?」


「えぇ。午後までに準備をしておいて」


「畏まりました」


 執事は不思議そうな顔をしている。グレイシア人形というのは三代前の王妃様を模して作られたと言われる人形なの。とても精巧な作りの人形で市井ではグレイシア人形を模した人形が出回っている。


「あらぁ、クレア陛下はこの歳になってもお人形遊びをするのかしら☆」


「ナーヤ、そうよ?可愛くて、楽しいものっ、私が遊んでいる間に仕事をしなさいなっ」


「んもぉ、陛下ったらっ☆遊んでいる陛下の分まで頑張るわね♪」


 そうして側近達と話をしながら執務をこなしていく。昼食は食堂で取る。ゆっくりと食べる食事はやはりいいわ。食後にまた執務室へと帰ると、机にはグレイシア人形がしっかりと用意されていた。


「用意してくれたわねっ。ではアーロンこの子を持って視察にいってらっしゃい」


そう言うと、目を丸くしたアーロンが生返事をする。


「ふふっ。立派な護衛騎士が人形を抱えて視察って面白いわね。ちょっと待ってねっ」


私はそう言うと、人形の額に手を当てると魔法陣が一瞬だけ浮かび上がった。



「へ、陛下。これは……?」


 先ほどまで座っていたグレイシア人形がひょっこり立ち上がり、口をパクパクと動かして声を出している。


「えぇ。私の魔力を入れた人形よ?私の分身とでもいうのかしら?三時間程度ならこの人形は動く事が出来るわ。もちろん私の魔力なので魔力を回収すれば視察の内容を知ることができるのよっ?」


 これには部屋にいた者が皆驚いた様子。そうよね。こんな魔法、誰も知らないもの。


――儂も知らん。面白いな。

 えぇ、私が新たに開発した魔法なのです。遠隔操作とは違い、ある程度意思を持って動くので制御はききませんが。 


「陛下!これは凄い!でも人形が奪われたら悪用されませんか?」


ミカルが代表したように言葉に出す。


「そ、その辺は大丈夫よっ。この人形は自分で意思を持って行動するから悪用しようとしても自爆するわねっ。そしてこの魔法も開発をしたのが私だし、使えるのも私だけ。特殊魔法陣だから他の人に陣は見えないのも自慢する所なのよ?」


 皆は凄いと驚いているようだがアーロンは眉を下げている。


「どうした、アーロン?そんなにがっかりする所か?」


「いえ、イクセル様。大の男が人形を抱えて一人歩くのは少し抵抗が……」


「あぁ、そういう事か。なら侍女ともう一人護衛を付けていけばいい。人形を侍女に抱かせて視察する様子を見せればいい。喋るし、動くのだから問題はない。むしろ王都で話題になるかもな」


「承知しました。侍女と護衛を連れて視察に行ってまいります」


「アーロン、ゴエイヲタノミマシタ。シサツ、タノシミ」


 人形がカタカタと動きアーロンに両手を挙げて抱っこのポーズを取る。アーロンも苦笑いしながら人形を抱えて視察へと向かった。後で知ったのだが、どうやらこの視察の方法、市井でも城の中でも話題になったらしい。


 そして陛下の治政が安定するまでの間、人形が私達を見守ってくれていると。人気は上々のようだわ。


 実は執務を人形にさせれないかと考えた事もあったのだけれど、こればかりは難しいの。人形ではペンを持つことが出来ない。もし指まで動かせる物を作ったとしても指先まで制御させる事はかなり困難だからだ。足はあるのでカクカクと歩く事は可能だけれど多分上手に歩けないと思う。あくまで視察のみにしか使えない。


さて、彼等が視察に行っている間に私は今日の分の執務を終わらせた。確か明日は一日執務で翌日は使節団出発式と婚約者候補とのお茶会だったわね。

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