第11話

「アスター・コール様がお待ちです」


「遅くなってしまったわ、急いでいくわっ」


 婚約者候補との面会時間ギリギリまで仕事をこなしてしまったわ。従者と共に急いで中庭へと向かった。


「あ、アスター・コール様、お待たせしましたわっ」


彼は騎士礼を執っている。あぁ、そういえば彼は騎士だったわね。私は手を挙げて応え、席に座るように促す。


「アスター様、待たせてしまったかしらっ?」


「いえ、陛下こうして会話を交わすだけで恐悦至極に存じます」


アスター様はとても緊張している様子。カチコチと動きがぎこちない。私にまで緊張が伝わってくる。


「……」


「……」


マズイわ、会話が成り立たない。

そうだわ、この間の騎士団での訓練の話をしてみればいいかしらっ?


「そういえば、この間騎士団に行ったわ。団長から聞いたかしら?あれから騎士達は頑張っているかしら?」


「陛下が騎士達に活を入れて頂けるとは思ってもいませんでした。最近たるんでいたのでいい薬になったと思います」


 あの時の話をするとアスター様は少しずつ緊張が解けてきたようだ。普段の騎士達の姿に思うところがあったようで私が現れた事がとても良かったと笑顔で言っている。


「あの場に俺もいればよかった。団長達が倒される程の実力者。クレア陛下の勇姿を是非目に焼き付けて起きたかった」


「あ、あれはたまたまよっ。剣術は苦手なのっ。体力もないし。もうやらないわっ」


勇姿なんて恥ずかしすぎる。しかもグラン様の力であって私じゃないもの。


「そうなのですか?団長達はクレア様が剣を持つ姿に大変好意的で次はいつ対戦していただけるのか、次は自分と剣を交えたいと話しておりましたよ?私も是非一度剣を交えてみたいと思っておりました」


そういうアスター様はキラキラと羨望の眼差しで私を見ている。


クッ、脳筋めっ。


騎士団には脳筋しかいないのかしらっ!?


「私は剣術より魔法が得意なのっ。でも、そうね、騎士達の士気が高まるような訓練をまた考えておくわっ」


「ふふっ。嬉しいです。これは楽しみだ。彼等はきっと泣いて喜ぶと思います」


 アスター様は素直にそう思っているようで満面の笑みを浮かべている。きっと部下達はこの微笑みとは対照的に青い顔となる事は間違いないわね。目に浮かぶわ。


「そういえば、アスター様はご令嬢にとても人気だと聞きました。お付き合いされていた方はいるのかしらっ?」


そこは気になる所よね。政略結婚であろうと王配になってすぐに浮気はちょっと……。


その辺はしっかりと聞いておかねば。


「いえ、私は剣の道一筋で過ごしてきたため婚約者はおりましたが、女性の方とお付き合いした事はありません」


「不躾で悪いけれど、婚約者の方は今どうしているのかしら?」


「彼女はもう二児の母親になっています。俺が不器用だったせいで彼女は愛想を尽かして他の人と結婚しました」


彼は少し苦笑しながら答えた。


「……そう。聞いてしまって申し訳なかったわ」


「いえ!とんでもございません。今はこうしてクレア陛下と同じ席に着ける事が嬉しくて仕方がないのですから」


「そう言ってくれると嬉しいわっ」


そこから少し雑談をしてこの日のお茶会は無事に終えることが出来た。




――クレア、疲れただろう。五人と会ってみてどうだった? 

 グラン様。好みで、というのであればアーサー様の女性に対する扱いに好感が持てました。今日会ったアスター様も実直な方で好感が持てます。ただ、王配と考えると不安は残ります。


――そうだな。次回は中庭でなく、気分を変えて別の場所で会うといいだろう。

 そうですね。五人ともどんな人なのかじっくりと見ていきたいと思います。


 そうして執務室で脳内会議を行っているうちに大臣達との打合せに入る。


今日は外交官受け入れ後の予算や工事についての話し合いだ。今回の外交官は複数名で我が国を訪れるのだが、各部門の優秀な官僚だと聞いている。治水や貧困対策、道路整備など様々な意見が交わされるのだ。視察も行い忌憚なく意見を述べるだろう。


改善できる箇所は速やかに工事に取り掛かりたいため、予め予算を組んでおきたい。


 そうして会議は深夜までかかったが、なんとか纏める事が出来た。


暗闇の中、部屋に魔法で小さな明かりを灯してソファへと身体を預ける。


ようやく今日も終わったわ。


 疲れたし風呂に入らず魔法で身体を綺麗にしてそのまま布団へ潜り込む。泥のような眠りにつく。


あぁ、明日はゆっくり起きても問題ないわね。





 翌日はいつもより少し遅くに侍女に起こしてもらった。食堂でゆっくりと食事を取った後、侍女に連れられて王宮衣装室へと向かった。年に数える程度しか来ないこの場所。


 面倒だなと思っている私の気持ちとは対照的にマヤやデザイナー、針子達はやる気に満ち溢れている。


王族も私だけとなり、彼等も暇を持て余してしまっているのよねきっと。前回選んだデザインのドレスが数点出来上がっていた。私はそれを着て最終調整と装飾品選び。そしてお茶会や婚約者との面会のドレスなども用途ごとに数十着準備されていた。


「ど、どれも素敵ね。流石だわっ。いつも素敵なドレスを有難う」


私は針子達に感謝を伝えると彼等はホッとした表情をした。そして衣装合わせも終わり、ようやく私の休暇となった。逸る気持ちを押さえつつ、部屋に戻るとロダが待っていたわ。

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