第10話

マヤに感謝しつつ本日も執務に取り掛かる。どうやらロダが執事業務に切り替わったようでロダが執事服を着て執務室に入ってきた。


「クレア陛下、本日から宜しくお願いいたします」


「ロダ、執事服が良く似合っているわっ。これから宜しくねっ」


「本日の予定ですが、午前は謁見申請があります。午後には外務大臣との打合せ、夕食は外交官との食事会が行われます」


「今日は盛りだくさんね」


 打合せの時間までの間に執務に取り組む。ロダも執事として同じ部屋で王族の収入や支出を帳簿に書いている。私の様子を覗いつつ、休憩を取りやすい様にお茶を淹れるのでとても助かるわ。


因みに私はあまり買い物をしないためロダに怒られてしまった。先日使ったはずの予算はまだまだ余っているらしい。


今までは宰相が政務のついでに私の一日の予定を組んでいたので執務一色だったけれど、これからはロダが私の体調や公務に合わせて予定を調整してくれるらしいのでとても助かる。


 近々一日ドレスや装飾品を用意するために王宮の針子とデザイナーを執務室へ呼ぶそうだ。聞いた話しによると高位貴族令嬢達は商会を邸に招いて化粧品や装飾品、ドレスなどを買うのだとか。


 下位の貴族は王都の宝飾店や商会に出向いて流行のドレスをオーダーメイドや既製品を買うらしい。着飾る事に興味のない私は流行がさっぱり分からない。その辺はマヤと相談するのだとか。マヤは『陛下には常に流行の最先端に立ってもらいます』と鼻息を荒くしてロダに迫っていたようだ。


「そうだ、ロダ。今の私に側近がいないの。側近を三名ほど欲しいから宰相に話しておいて欲しいわっ」


「畏まりました」


 そうして執務を行い、時間になってから謁見室へと向かう。謁見の間は公的行事の時や大勢の人がいる時に使われるけれど、その他は謁見室で行われる。今回は貴族からの陳情らしい。


私が謁見室に入ると宰相から陳情書が渡された。地方の男爵。入室した男爵は長々と口上を述べている。その後、男爵の訴えでは領地が最近降った大雨で畑の作物が生育不良を起こしているのだとか。納税を待って欲しいとの訴えだ。


「……そう。大変だったのね。けれど、納税を遅らせることは出来ない。その代わりに魔導士を派遣しましょう」


宰相は陳情の内容や私の発言をしっかりと書き取っている。後で手配してくれるようだ。陳情類も私自身が手配書を書いていたのでこれは本当に有難い。資金の少ない貴族にとって治水や盗賊などの治安維持に関する事は重要で一歩間違えれば一族全てが没落していく。


どこまで国が手を差し伸べるかが重要なのだと思う。国庫と平等を考えて行わなければいけないためさじ加減がまだまだ難しく感じてしまう。


――十分良くやっているぞ。自信を持つといい。

 グラン様にそう言ってもらえるのは嬉しいです。


――だが、貴族同士の領地争いの場合は見極めが必要だ。お互いを陥れるために偽りの情報を出してくる可能性がある。十分注意するように。

 承知しました。


 そうして午前中は主に貴族達からの陳情で時間が過ぎていった。今日は忙しいわっ。


今日も、だけれど、昼食をゆっくり取る暇がないもの。執務室へ戻ってからは従者が昼食を運んできたので食事をしながら執務を行う。そこから会議室へ向かい外務大臣との打合せに入った。主に諸外国との関税についての話し合いだ。奴隷を持ち込もうとする貴族にも目が離せないため厳しく目を光らせる必要がある。


そして今度隣国の外交官が技術提携のために我が国に訪問する事になっている。夕食時には我が国から隣国に向かう外交官との最終打ち合わせがある。若くて女の王となれば足元を見られるかもしれない。気を抜く事が出来ないわ。深夜まで続いた外交官との打合せ。


どうか上手くいきますように。


 部屋に戻って来た時にはすでに日にちが替わり、ベッドに入る頃には空が白み始めていた。久々に遅くまで仕事をしたせいか、朝の目覚めはとても悪かった。


あぁ、もっと寝ていたいわ。



 寝ぼけ眼でマヤにドレスを着せてもらい執務室で軽食を取りながら執務を開始する。暫くするとロダが部屋へ入ってきた。


「陛下、昨夜はお疲れ様でした。本日の公務ですが、午前中は執務。午後からアスター・コール様との面会となります。場所は中庭で宜しいでしょうか?」


「えぇ、中庭でお願い」


私は書類に視線を向けながらそう答える。


「承知致しました。それと夕方からは財務大臣との打合せがあります」


「今日も遅くまで仕事になりそうね」


「そう思い、明日は午前中に王宮衣装係の者との打合せ後は公務を入れておりません。ゆっくりくつろげるかと」


私はロダの言葉に手を止めた。


「……半日休み?」


「えぇ。陛下は休日が無かったではありませんか。予定がみっちり詰まっていて半日しか取れませんでしたが、明日は少しばかりお休み下さい」


「ろ、ロダ、有難う。頑張るわっ」


ロダは私のために休養をもぎ取ってきてくれたに違いない。感謝しかないわ。私は明日の休養で気分を良くし、執務をサクサクと終わらせていった。

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