第12話

「ロダ、どうしたのかしらっ?」


「クレア陛下に明日の予定だけお伝えしておこうと。明日は一日執務のみとなっております。翌日は謁見、会議、婚約者候補との面会となっております。場所はどうされますか?」


「確か、明後日はベイカーよね?んーそうね。ベイカーの魔導士棟へ私が行くわっ」


「承知致しました。先触れを出し、手配しておきます。では短い時間ですがどうぞごゆるりとお過ごし下さい」


 ロダはそう言うと礼をして部屋を後にした。私は早速ワンピースに着替えてベッドへと飛び込む。侍女が珍しくはしたないですと注意されたけれど、たまにはいいのよっ!侍女も私の忙しさや普段の行動を知っているからそれ以上何も言わなかった。


一応、注意はしましたよ、という感じかしら?


読みかけの魔法本に目を通した後、ベッドでゴロゴロする。


……読み切ってしまったわ。


面倒だけれど図書室へ行って本を借りてこよう。


 私は侍女と護衛を連れてワンピースのまま図書館へと向かう。道すがら護衛の一人に聞いてみた。


「ねぇ、この間、私が騎士団に渡した騎士団用訓練メニューを護衛騎士達もやっているのかしら?」


「はっ、私共は別メニューで訓練を行っておりますのであちらのメニューはやっておりません。ですが、全員目は通しております」


「どんな訓練をしているのか聞いてみたいわっ。今度アーロンに聞いてみるわっ。アーロンの事だからきっと厳しい訓練なのでしょうけれど」


「……そうですね。筆頭殿のおかげで我々は何度か死にかけました。厳しい事は間違いないです」


 アーロンは騎士団に渡した訓練書を気に入ったようだったので更に上をいく訓練にしているのだろう。ふふっ、と侍女と笑っている間に図書館へ到着した。




 王宮図書館は貴族であれば誰でも閲覧は可能となっているので今の時間でもまばらだが人はいる。私はその人達に紛れるように魔法本を探し始めた。


 いつも図書館に入り浸っていたので難なく本を探し当てて三冊手に取る。沢山読みたいけれど執務が許してくれそうにないので泣く泣く選んだ三冊。


侍女が代わりに本を持ち、部屋に戻ろうとしている時にふと一組の男女が目に留まった。


どうやら男の方が令嬢を口説いている様子。令嬢も満更ではなみたい。本を読むための場所なのに、嫌になっちゃうわっ。私は視線を外し、歩き始めた時。


――クレア、あの男。奴ではないのか?


グラン様の声でもう一度男をよく見る。


……彼ですね。楽しそうですね。邪魔しては悪いでしょうからこのまま立ち去りますわ。


 侍女も護衛騎士も私の見ている方向に気づいた様子。口を開く事はないけれど、眉間に皺が寄っている。


「早々に立ち去りましょう」


 私は侍女に声を掛けると、侍女は頷き、私達は足早に部屋へと戻った。モヤモヤ気分を味わいながら読書をする。今日見た感じだと手慣れている様子。いつもああなのかもしれない。


私の中での彼の評価がガタ落ちね。


――クレアよ、まぁそう落ち込むな。奴は仕事は出来るかもしれんぞ?それに男は他にもいるではないか。

 グラン様、早めに気づいて良かったかもしれませんね。まぁ、王族を増やし、仕事がある程度出来る王配が必要ですからね。気が多いのは多めにみなければいけないのでしょうね。


 私はグラン様に慰められつつ気持ちを切り替えて読書を続けた。翌日も仕事を早く終わらせるべく早朝から執務に取り掛かり、超高速で昨日の残りの分も加えた量の執務をこなす。





午前中の執務が終わろうとしていた頃、宰相が部屋へとやってきた。


「クレア陛下、側近候補の件なのですが、今、お時間宜しいでしょうか?」


「えぇ。いい方が見つかったのかしらっ?」


「側近候補者は三名。そのうち二人はマテウス前陛下の側近であったイクセル・ラルカンジュとミカル・ハーララであります。あと一人はナーヤ・メグレです」


 兄の側近だった者は全部で五名いたの。兄が亡くなってから側近を外され、文官として勤務していたはず。一人は婿養子となり、領地に帰ったはずよね。


「宰相、兄様の側近であった後の二人はどうしたのかしら?」


「……あぁ。二人とも結界で動くこともままならず、療養という事で領地へと戻しました」


「……そう。彼等が邪魔をしていたのね」


「そうですな。ラルカンジュ子爵子息とハーララ伯爵子息は真面目に文官として働いております。彼等は王家の派閥と中立の立場の派閥に所属をしておりますし、安心しても宜しいかと存じます。あと、メグレ侯爵子息は言わずもがな、という所ですな」


 ナーヤ・メグレは私の竹馬の友と言ってもいい。彼には一つ下の妻がいて愛妻家なのよね。もしナーヤに妻がいなければ王配はきっと彼になっていたと思う。私に堂々と意見する数少ない友人の一人よ。


学院でも私とベイカーの三人が成績を常に争っていた程の優秀な人。彼なら側近にしても問題ないと思う。反王族の派閥でもあり、彼を側近に迎えれば派閥のバランスも取れて丁度いいのだろう。


「よくナーヤが側近を受けてくれたわねっ」


「そうですな。奥方の勧めもあって引き受けたようです。では午後、イクセル・ラルカンジュとミカル・ハーララを挨拶のために呼びます。明日から彼等にはここで働いてもらいましょう。そしてメグレ侯爵子息は明日登城してもらい、準備が整い次第勤務してもらうようにしましょう」


「お願いするわっ」


 宰相が部屋を出ていくと私は書類にまた目を通し始める。人事一つにも派閥を考えないといけないのは面倒よね。今の情勢ではゆっくり選んで、なんて言っていられない。


軽く執務室で昼食を取った後、執務を再会していると宰相が言っていた側近になる二名が部屋へとやってきた。

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