叶願鏡
夏伐
第1話
私の学校には他の学校とは少し違う七不思議がある。
トイレの幽霊、動く石像や肖像、勝手になるピアノなんかはもちろんあるんだけど、ありふれた怪談に紛れて変な怪談が一つある。
旧校舎の美術室にある大きな鏡についての噂だ。
怪談は『願いをかなえてくれる鏡』と言う。
どんな願いも叶えてくれるというわけではない。
なりたい自分になれる、というものだ。
ぼっちだった子がクラスの人気者に。運動ができなかった子が球技大会で大活躍。
性格がいつの間にか変わっていた、というのが周囲の認識らしい。
年にそういう子が何人かいる。
皆良い方に変わるので、おふざけ半分で鏡の噂を試す子は多い。
ある日、となりのクラスの友達が鏡の噂を試した。
私と他数人はその付き添いで旧校舎に行った。
「鏡さま、鏡さま! 明るくてみんなの人気者になれますように!」
次の日からその子は少し変わった。
前は自分に都合が悪いことがあると機嫌が悪くなる、気分屋な所があった。
それが、何というか、良い子になった。
面倒な雑用も笑顔で引き受けてくれる。
友達の相談を親身に聞いてくれる。
何と言うか朗らかな雰囲気になった。
数か月で前よりちょっと皆からの株があがった。
それを見て、私は思ってしまった。
来年卒業してしまう先輩。告白する勇気すら持てない。
そんな私を変えたい、と。
放課後、一人で鏡の前に立ち、
「鏡さま、鏡さま。どうか先輩に告白できる私にしてください……!」
言い終わって少しドキドキした。
だけど、何も起こらない。
家に帰って少ししても何も変わらない。
だが次の日のことだ。
先輩が一人いる所に遭遇してしまった。
いつもなら目が合わないように盗み見て、それだけだ。でも、その日は先輩に向かって話しかけることができた。
ドキドキで逃げ出そうとする心とは反対に足が勝手に先輩に向かったのだ。
と、言っても大したことは話していない。
天気とか部活のこととかの話だけ。
話終わってすごくドキドキした。
見かける度に少しずつ話しかけることができた。
次に二人きりになった時、その時きっと告白しよう。
そう決意した晩、鏡の噂の最後を実行した。
寝る前に目をつむり、心の中で「鏡さま、鏡さま。ありがとうございます」と唱えるのだ。
「鏡さま、鏡さま……。ありがとうございます……」
眠りについた時、不気味な夢をみた。
真っ赤な炎が燃える岩場で熱湯に沈められ、四肢を引きちぎられ、舌を抜かれる。ボロボロになってもいつまでも終わらない、そんな悪夢。
「ありがとう……おかげで私は自由よ」
背筋がぞわっとする声で話しかけられ、振り向くと……そこに私が立っていた。
私が今いるのは、あの鏡の中だった。
「ちょっと、どこに行くの!? 待って! 待ってよ!」
私の叫びを無視して、私の体は去ってしまった。
あの地獄と地続きになっていた鏡の中で私は、苦しみながら長い時を過ごした。
分かったのは、あの噂を試した人の体に同居できるということ。
嫌だな、と本人が思っていても私が勉強を続けさせる。走る練習をさせる。笑顔を作る。
何となく、あの最後の呪文を唱えると入れ替われるんだろうな、と感じる。
早く、早く。誰か、誰か……!
私は地獄で自分の浅はかさを悔い続ける。
次の人生では、私は――。
叶願鏡 夏伐 @brs83875an
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