13話 火山の異変2
「やれやれ。すぐ油断するところは変わらないね、エノアヴァレス!」
メリジュナさんは素早くエノアヴァレスさんの前に踊り出る! だが、一体どうするのだろう? 紅蓮龍ヨルガンムルトはその巨体をもって今にも二人を押しつぶそうとしているのだ。いくらメリジュナさん──ギルドが誇るS級冒険者といえども、この状況をどうにか出来るとは思えなかった。
「エノアヴァレスさん! やっぱり私の手錠を――」
「それには及ばないさ、レヴィアンタ。そういえば、君にはまだ私の能力を見せたことがなかったな」
落着き払った様子でメリジュナさんがそう言うと、両手を合わせて目を閉じた。
「出でよ冰槌――」
次の瞬間、彼女の両手が神々しい光に照らされ、巨大な槌が現れた! 荘厳な装飾で彩られ、美しい白に包まれたそれは、絶えず白い霧のようなものを噴出していた。
「この霧……もしかして冷気……?」
だとしたら凄まじい属性エネルギーだ。武器の外見に影響を及ぼすならまだしも、周囲の環境にさえ変化をもらたすほどの力をもった武器なんて、この世界にも限られた数しか存在しないと聞いたことがある。
「エノアヴァレス、私に合わせろ。やれるな?」
「誰に向かって言っているやら。アナタこそ、吹っ飛ばされないように気をつけなさい」
「ボルァァァァァァァァッッッッッシュ!!!」
ヨルガンムルトは二人に向かって無数の火炎弾を吐きつけたが、それぞれ軽快なステップで見事に回避してみせた! そして、今まさにヨルガンムルトの巨大な口が、二人に迫ろうとした瞬間――メリジュナさんが氷槌を振りかぶり、その槌底めがけてエノアヴァレスが拳を見舞った!
「エノアヴァレス流暴力殺法、弐の型――飛空砲ッッ!!」
「打ち砕け、冰槌ッ!」
冰槌の振り抜きに合わせて拳の一撃が放たれ、加速した勢いがそのままヨルガンムルトの顔面に突き刺さった! 赤熱した表皮はすぐ白い霧に包まれ、顔は霜によって真っ白に染まっていく……!
「ボルァァァァァァァ………ッシュ!!」
とうとう衝突の衝撃に耐えかねたヨルガンムルトは、その巨体を大きく宙に跳ね飛ばされ、天井に叩きつけられた! そのまま力なく落下してくると思われたが、体を上手く捻って落下地点を変え、そのまま溶岩の海へと姿を消していったのだった。
「ああ、逃げちゃった……」
もし仕留めれたらどんな味がするか試したかったのに……。まぁ、仕方ないか。それはまたの機会にしておこう。それよりも、今は二人が無事だっただけでよしとしよう。
「やれやれ。まさか火山の主を相手にすることになるとは思わなかったよ」
「よく言いますわね。アナタが本気を出していたら今頃、溶岩龍の氷漬けが完成していたでしょうに」
「まぁアレはギラファレックスと違って在来種──それも生態系の頂点だ。下手に仕留めてしまえば火山の生態系に大きく影響を及ぼすだろう。そうなれば私がマスターにどれだけ小言を言われるか分かったものじゃない」
メリジュナさんは肩を竦めて笑っていた。その手にはもう、眩い光を放つ巨大な槌は存在しない。一体どういう能力なんだろうと気になっていると、よほど表情に出ていたらしく、メリジュナさんの方から教えてくれた。
「召喚魔法さ。太古の昔、人の手が及ばない領域に封印された武具の数々を、好きな時に出したり引っ込めたりできるのさ。こんな風にね」
と、次の瞬間、メリジュナさんの手にマジックハンドのようなものが現れていた。かと思えば凄まじい速度で伸び――エノアヴァレスさんの胸を揉みしだいた。
「…………この変態趣味は、このように召喚魔法を悪用して女性にちょっかいをかけることを生き甲斐としている、どうしようもない女ですの」
「嗚呼、相変わらず素晴らしい弾力だ、エノアヴァレス……」
メリジュナさんは恍惚の表情を浮かべながら何度もマジックハンドを握りしめている。その手つきを見ているとなんだか背筋に寒気が走ってしまう。
「まったく。ただでさえ貴重な召喚魔法を……それも伝説クラスの武具まで召喚できる力を持つ魔導士なんて本当に稀ですのよ。それを、こんな使い方ばかりするのですからしょうもない限りですわ……」
そう言ってエノアヴァレスさんはマジックハンドをギュッと掴み、ボロボロに粉砕した。いやおかしいでしょ。ちょっと壊れるくらいなら分かるけど、なんでちょっと握っただけで粉微塵になってるのよ。恐ろしすぎる。
「何はともあれ、これでようやく一難去ったというところか……ん?」
メリジュナさんがなにかを察知すると同時に、天井が少しだけ揺れた。なんだろう、と思って上空を見ると――なんと、一本角の巨大なドラゴンが、天井で四つん這いになってこちらを見つめているではないか!?
「ギャラアアアアアアアアアアアッッッッシャ!!!!!!」
そのドラゴンは雄たけびを挙げながら私たちの眼前に着地した! 大きい……! 先ほど退治したギラファレックスや、紅蓮龍ヨルガンムルトよりもさらにひと回り大きい! 巨大な前脚、鋭くて大きなツメ、大きな口に牙……そしてなによりも印象的なのは、天すら突き穿たんとする摩天楼のような一本角である! もしあれに突かれたら、ひとたまりもないだろう。
「ヘラクレックス、だと……? 一本角の悪魔が、なぜここに……」
メリジュナさんが珍しく動揺を見せていた。ヘラクレックスなんて魔物は聞いたこともないが、そんなにヤバイ奴なのだろうか?
「かつて魔王戦争の際に創られたとされる、最強のドラゴン種ですわ。存在が確認された個体は全て、ギルドと王宮が総力を挙げて討滅したはず……」
「ああ、こんなものが自然界に存在するはずがない。ここに何者かの悪意が潜んでいることは間違いない……」
二人は凄まじい表情でヘラクレックスと対峙している。二人の話ぶりを聞くに、相当な強敵らしい。
それにしても、自然界に存在しないドラゴンって一体どんな味がするんだろう? もしかしてめちゃくちゃ美味しかったりして……。
「あの……。もしよかったら、今度は私に任せてもらえないかしら?」
「「なっ…………!?」」
二人が驚いた表情で私を見据えた!!
「正気ですの? あの一本角の悪魔を相手に、たった一人で戦おうなんて……」
「……いや。だが逆に考えればこれは、君の力を推し量る絶好のチャンスかもしれない」
メリジュナさんが小さく頷くと、素早く私の手錠を外した。
「見せてもらおう、レヴィアンタ。君があの悪魔と、どう戦いを繰り広げてみせるのか」
「ギャラアアアアアアアアアアアッッッッシャ!!!!!!」
耳をつんざく慟哭が洞窟中に響き渡ると同時に、ヘラクレックスの放った無数の黒炎弾が眼前に迫り来る……!!
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