11話 ガランドロン火山へ

「……本当に一瞬で到着してしまったな」


 ガランドロン火山の入口まで転送を完了させると、メリジュナさんは驚いたように辺りを見渡した。先ほどまで眼前に広がっていた緑の平原は見る影もなく、代わりに巨大な赤い山が聳え立っている。山頂からは時おり赤熱したマグマが噴き出し、頂上付近に降り注いでは白い煙を上げていた。そこら中に転がっているゴロゴロした岩は、そうした火山活動によって噴出されたものだろう。先ほどと比べて気温も一気に上昇しており、何もしていないのに汗が噴き出してくる始末だ。しかし二人はそんな環境の変化に気を取られる余裕もなく、ただ私の転送魔法の力に驚いているようだった。


「噂には聞いていたが……いざ自分の身で体感すると凄まじいものだ。なるほど、君が真髄とまで言うだけのことはあるな」


「べ……便利な力ということは認めましょう。し……しかし慣れるまでには少し時間がかかりそうですね……」


 エノアヴァレスさんはフラフラと足元がおぼつかない。恐らく、転送酔いを起こしてしまったのだろう。凄まじいスピードで走る馬車から降りたあと地面に慣れるまで時間がかかるのと似たようなものだ。


「レ……レヴィアンタさん? こ、このスキに変な真似をしたらタダではおきませんからね……?」


「言われなくても、何もしないわよ……」


 そんなことをしたら後でどんな目に遭わされるかも分からない。それにしても、彼女の根性には恐れ入る。今だって気持ち悪くて堪らないだろうに、気迫だけで立ち続けているのは流石の一言に尽きる。それだけ、私を警戒しているということなのだろう。

 さっきだって、ようやく魔法の発動を封じる手錠を外してもらえたと思ったら、それでは逃げられる可能性があるからと、私たち三人が決して離れ離れにならないよう、お互いの腕にガッチリと鎖を巻きつけたのだ。

 そんな状態で転送したものだから、エノアヴァレスさんがフラフラするたびに私とメリジュナさんまで引っ張られてしまう。


「おい、エノアヴァレス。少し横になって休んだらどうだ?」


「よ、余計なお世話ですわ……ぼ、暴腕のエノアヴァレスと呼ばれたこの私が、転送酔いにやられたなどとあっては示しが……ああ~~~」


 とうとう、エノアヴァレスさんはその場にへたり込んでしまった。あまりにも急だったので、私とメリジュナさんも釣られるように倒れ込んでしまう。


「ぎゃー!!」


「おっとっと……これは失敗したな」


「め、メリジュナ……! そう無茶に動かれると鎖が余計に絡まりまってしまいますわ!!」


「ん? そうだったか。これはすまない」


 謝る素振りを見せつつも、メリジュナさんは更に鎖をガチャガチャと絡ませていく。いつの間にか私たちは、お互いの体を寄せ合って鎖に絡め取られるような恰好で地面を転がるハメになってしまった。


「メリジュナ……! アナタ、ワザとやっているでしょう!?」


「はっはっは、そんなことはない。それに、元はといえば素直に私の忠告を聞かなかった君が引き起こした事態だろう?」


「ちょッ……! ただでさえ暑いのに引っ付かないでくださいまし!」


「そう言われてもだな……フフっ」


「ぎゃー!! ちょっと、メリジュナさんどこ触ってるんですか!?!?!?」


「失敬、失敬。はっはっは」


「メリジュナ……アナタ、後で覚えておきなさい!」


 結局、私がエノアヴァレスさんに鎖の転送を許可されるまで十分近く、火山の入口でおしくらまんじゅうをするハメになってしまったのだった。調査が全然進まない割にめっちゃ汗かいちゃったハァハァハァハァ。

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