10話 ゴブリン襲来の謎を追え!

 シムバス平野に到着した私たちは、ざっと辺りを見渡す。どこまでも広がる緑の原っぱ。透き通った空気に晴れ渡った空。この平野にはいつも心地よい風が吹いていた。


「さて、まずはどこから始めましょうか」


 エノアヴァレスさんが言うと、メリジュナさんはふむ、と口元に手を当てた。


「まずはゴブリンがどこから襲来してきたのか。その痕跡を探したいところだが……すでに戦後処理は終わっているようだしな。分かりやすい手がかりは見込めないか」


「ならやはり――首謀者に聞くのが手っ取り早いのでは?」


 エノアヴァレスさんは両手を合わせてバキバキと音を鳴らした。思わず私は細い呻き声を漏らしてしまう。ただ手のひらを合わせているだけなのに、どこからそんな音が出るのよ!


「エノアヴァレス。そう結論を急ぐな。……レヴィアンタさんは、なにか案があるか?」


「そうですね……」


 少し悩むフリをしたが、最初から私の考えは決まっていた。


「ゴブリンだって突然現れたわけでもないでしょうから、目撃者は少なからずいるはず。となれば、まずは目撃情報を集めるのも手ですけど……」


「それは王やマスターも承知しているところだろう。今頃、部下に情報を集めさせているはずだ」


「ですよね。せっかくお二人のような特別な戦力を持つ人がいるのですから、違うアプローチで捜索を進めるのがいいですよね」


「特別な戦力……ふふ」


 エノアヴァレスさんが満更でもなさそうに口元を緩めている。この人、案外チョロいのかもしれない。


「となれば、私たちはフィールドワークを──それも並の冒険者では捜索が困難な場所に当たってみるのがいいと思うんですよね。さて本題ですが、千を超えるゴブリンの群れがどこから来たかと考えれば、やはり、本来ゴブリンが住処としていた場所でなにか――急な環境の変化があったと考えるのが妥当ですよね。そして、襲撃が始まるまで誰もそのことに気づかなかったとなれば、冒険者たちが滅多に立ち寄ることのない難易度の高いダンジョン、もしくは――この季節、禁猟区に指定されているダンジョンが怪しいと思いますね」


「へぇ……。なるほど」


 メリジュナさんは少し驚いたように頷いてみせた。エノアヴァレスさんの表情には少し、警戒の色が浮かんでいるようだ。


「いや、すまない。君が、この辺りの情報にそこまで精通しているのに驚いたんだ」


「そうですね。元はGランクの冒険者だったと伺っておりますが、随分と詳しいんですのね?」


「あはは……。Gランクの冒険者にも出来るような仕事なんて、めったにありませんからね。楽な採集とか、弱いモンスターを狩って少しでも美味しいものを食べようと思ってたら、自然と覚えてたんですよ」


「ふむ。日々を生き抜くための知恵か……」


 とメリジュナさんは感心していた様子だったが、エノアヴァレスさんは少し呆れている様子だった。


「食い意地が張っているからこその知見ですわね」


「あはは……」


 この二人、とにかく意見が食い違うというか、見ていて気持ちがよくなるくらい正反対の性格だ。


「とにかく条件を絞るとすれば三つ。①ゴブリンが生息している、②強力なモンスターの生息域な禁猟区、③人気が少ない場所……」


「となれば──真っ先に思い浮かぶのは、あそこですわね」


 エノアヴァレスさんはずっと遠くに聳える山脈を指さした。


「ガランドロン火山。この時期は火山活動の活発化を理由に禁猟区指定されていますわね。おまけにモンスターも強力、環境も過酷で、並の冒険者ではとても立ち入ろうなんて思わないでしょう」


「となれば──悪人が悪巧みをするには、うってつけの条件が揃っていると思いませんか?」


「よし。方針は決まったな。となれば」


 メリジュナさんは私の肩にトンと叩いた。


「早速、君の出番だな。転送魔法の真髄とやらを見せて貰おう」

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