9話 出立
「やぁ、エノアヴァレス。久しぶりだな」
次の日、早朝から王宮を出立しようとする私たちを正門で待ち構えていたのは、メリジュナさんだった。薄い布をいくつも巻き付けたようないつもの服装と違い、今日は丈の短い深緑のトレンチコートを来ていた。なんというかカジュアルな軍服のようなコーディネートである。どうやらこれがメリジュナさん本来の戦闘着らしいけれど、こんなに凛とした佇まいは普段の格好から連想出来なかったので、思わず見とれてしまった。
「メリジュナ? なぜアナタがここに?」
「マスターの指示でね。私も君たちの冒険に同伴させてもらうことになったのさ」
「なっ……なにを勝手なことを言っておりますの!?」
「勝手な話でもないさ。所属している冒険者に王命が下されたとなれば、ギルドとしても協力を惜しむ理由はないからね。ほら、王宮の許可も取りつけてある」
メリジュナさんは胸のあたりから一枚の書状を取り出した。どう考えても物の入るスペースなんか無いのに、どうやって……? 一体どんな構造をしているのかすごく気になる。
(そんなことより、マスターの手腕に感謝しないとね……)
正直、このままエノアヴァレスさんと二人で冒険となれば、いつどんな言いがかりをつけられて血の海に沈められてもおかしくないと思っていた。エノアヴァレスさんはちょっと極端すぎるとしても、王宮側の人間だけが私を監視するというのは条件が不平等すぎる。
だから私は、先んじてマスターにお願いしていたのだ。こういう事態になったとき、ギルド側の人間も同伴してもらえるように。
私にとってうまく事が運んで好都合だったけれど、エノアヴァレスさんはご機嫌斜めのようだった。
「――相変わらずよく廻る口ですのね、メリジュナ。道化師風情にはよくお似合いですわ」
「そう突っかかるなエノアヴァレス。君だって本当は、こういう状況になることくらい分かっていたんだろう? 王宮とギルドは、均衡を保たなければならない……」
「どちらかが先んじて勢力を拡大するようなことがあれば、結果として国の混乱を招きかねない。分かっていますわ。私が王から指名された以上、均衡を取れる相手となれば、いま国内で動けるS級冒険者はアナタくらいのものでしょうからね」
「なんだ、分かってるんじゃないか」
メリジュナさんは少し呆れたようにため息をついた。どうやらこの二人、ちょっと……どころか、相当仲が悪いのかもしれない。
「しかし、レヴィアンタさんの身柄や目的を明らかにすることが、現状の均衡を揺るがしうることに繋がると私は思っておりませんけれどね」
「うん? 彼女が見せた転送魔法の力を見れば――いや、なるほど。君はレヴィアンタが国賊の一味だという説を推しているから、最終的に抹殺すればギルドにも王国にも利が生じないと考えているのか。フフ……」
「なにがおかしいんですの?」
「いや。その疑いがいつまで持つかなと思っただけのことさ」
「ふん。私は昔から、アナタのそういう全てを理解したかのような顔が大嫌いですわ!」
「そう言うな。なんにせよ、これから一緒に冒険していく仲間になるんだからね」
メリジュナさんは私たち二人の肩を持って、とんとんと叩いた。
「仲良くしようじゃないか」
その手つきが、妙に艶めかしく思えたのは気のせいだろうか。
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