4話 襲来! ゴブリン軍団!

 その日、青空が広がっていた平和な城下町に悲鳴が響き渡った。


「モンスターの襲撃だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 城下町の西側から、ゴブリンの大軍が押し寄せているという情報がギルドを駆け巡った。すでに自警団が出撃して、必死の攻防を繰り広げているらしいが、圧倒的な数量差に押され、西門に到達するまでは時間の問題らしい。


「すぐに出れる連中を集めろ! Aランク以上の冒険者は俺と一緒に増援に! Bランク以下は街の中にいて防衛に徹しろ! メリジュナ、あとは任せた」


「承知しました、マスター」


 Bランク以下の冒険者の扱いを副長のメリジュナに一任すると、ベストラは少数精鋭で自警団の救援に向かった。その中にはA級剣士のブリガット、斧使いエルヴァント、弓兵ルシテウスの姿もあった。強力な魔物が相手でも決して引けは取らない、早々たる人員がベストラの後に続いた。

 街を出たすぐ先、シムバス平野で彼らが目の当りにしたのは、地獄のような有様だった。


「コイツは……ひでェな……」


 広い草原を埋め尽くす、ゴブリンの大軍。その数、ざっと数えても五百――いや、千匹以上いると思った方がいいだろう。一匹一匹の力は大したことがなくとも、圧倒的な数で戦況を支配するのがゴブリンという種族である。


「キシャシャシャ!! シャァァ!!」


「うわぁーッッ!!」


 自警団も奮戦しているが、一人あたり数十匹もまとめて襲いかかられてはひとたまりもない。一人、また一人と倒れ、その隙間からゴブリンの軍勢が町を目掛けて進軍する! ベストラはすぐさま魔法の詠唱を開始した。


「天空より飛来せし炎の鉄槌よ、地を砕き海を割り、万物を塵へと還すがいい! ――降り注げ、メテオフレア!」


 ベストラの詠唱によって上空から無数の隕石が降りそそぎ、ゴブリンを次々に打ち砕く! 辛うじて被害を逃れた数匹も、ルシテウスが正確に放った矢に斃れていく!


「今ので数十匹は片づけたが……って、たったの数十匹かよオイ」


 ベストラは苦笑しながらも、さらに手に持った槍でゴブリンを引き裂いていく。我慢比べの戦いになる、と彼は直感した。


「数は多いが一匹の戦闘力は大したことがねぇ。消耗の少ない戦技や魔法で正確に仕留めろ。間違っても討ちもらすなよ! テメェらもA級冒険者なら意地を見せろ!」


 彼の鼓舞によってA級冒険者たちは奮起し、次々とゴブリンへ向かってゆく! ある者は剣で、ある者は斧で、ある者は魔法で。ゴブリンはどんどん斃れてゆく。だが、その数は一向に減る兆しを見せない。


「ったく、今回の騒ぎは異常だぜ……一体どうしてこんなことになった?」


 確かに、年に数回はなんらかの自然現象が影響して、ゴブリンの繁殖数が著しく増えることはある。それにしたって、千匹近い群れを率いるなんて現象は見たことも聞いたこともない。


「もしかすると今回の件、何者かの悪意が絡んでるんじゃねェのか? だとしたら――」


「マスター! 危ない!」


 冒険者の声にはっとした瞬間には、手遅れだった。矢が、ベストラの眼前にまで迫っていたのだ。


(ゴブリンの中に弓兵がいやがったか!? クソッ、俺としたことが油断した――)


 辺りにいる冒険者たちのフォローも間に合わない! 皆、自分の面倒を見るので精一杯だ! 自分でどうにかするしかないが、この距離では回避もできない!


 迂闊だった。戦場で考え事に没頭するなんて、戦士として失格だ。そんな後悔が彼の中を通り過ぎ、走馬灯が巡り――時間がゆっくりと流れる中で!


「待たせたわね! 私が来たからには、もう大丈夫よ!」


 聞き覚えのある、転送魔導士の声が響き渡ったのだった。

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