2話 お婆さんの魔導書
その日は何もすることがなかったのでレストランで水(タダ)を飲みながらボーっとしていたら、マスターがのそのそとやってきた。
「よう、レヴィアンタ。そんなに暇なら、少しは勉強でもしたらどうだ?」
「これって……」
マスターはテーブルに一冊の本を置いた。表紙はボロボロで、文字もかすれている。適当にめくったページは一部が茶色くなっており、端の方は破れていた。
「うわ、なにこれ! 超ボロいんだけど!」
「はっはっは、年季が入ってることは否定しねぇよ。なんせそいつは、俺の遠い祖先……ひいひいひい婆さんが愛用していたってウワサの魔導書だからな」
「マスターのひいひいひいお婆さん!? って……何百年前の本よ!?」
「まぁ聞け。実を言うと、俺の祖先は元々、お前と同じ転生者で、しかも転送魔導士だったらしい」
「転生者で、転送魔導士……? それじゃ、さぞかし侘しい生涯を送ったんじゃない?」
「そう思うだろ? ところが伝承によると、婆さんはまだ未開だった王国の地を発展させた立役者だって記述が残ってるのさ。なんでも最終的には王宮の魔導士にまで成りあがって、晩年は王国一の賢者とまで持て囃されたらしい」
「嘘ォ!?!?!?!?!?!?!!?!? あんな馬にも劣る転送魔法でどうやって!?!?!?」
「馬にも劣るって……お前な。まぁ、詳しい話は俺も知らねぇが……どうやら王国に迫る魔物の大軍を一瞬で消し去ったとか、この世界には存在しない技術を生み出したとか、王宮じゃ未だにそういう伝説が残っていると聞くぜ」
「随分と曖昧な話ね……アナタの祖先の話じゃないの?」
「しょうがねぇだろ。王国が興る前の話だ。文献や文明だってロクに整備されてねぇ、言っちまえば人と神がまだまだ近しかった時代の話なんだからよ。で、後世に残されたのはその本だけって訳だ」
マスターは、ボロボロの本を指さす。
「そいつは婆さんが死ぬ直前に書いたモンらしいんだが……異世界の言葉で書かれているみたいでな。王宮の学者さんも必死で解読を試みたらしいが、断念しちまった。そんで、ボロボロになって俺の元に返ってきたソイツが、今の今まで俺の倉庫にずっと眠ってたってワケだ」
「へぇ……。でも、いいの? そんな貴重な品を、私みたいなヤツに預けちゃって」
「構わねぇよ。どうせ俺が持ってたって何が書いてるか分からねぇし。それに、読めるヤツの手元にあった方が、その本も喜ぶだろうと思ってな」
マスターは本にそっと手を乗せて言った。
「それに俺は少しばかり、運命めいたものも感じている。なんせ王国の賢者とまで呼ばれた先祖の婆さん以来、転生者ってのはお前が初めてなんだからよ。長年ギルドマスターを務めた俺の勘が、この本からなにか始まるんじゃねぇか……って言ってるんだよ」
「ふぅん……マスターがそこまで言ってくれるなら、お言葉に甘えて借りさせてもらうわ。ありがとね」
どうせやることもないし、金もない。暇つぶしがてらに読書というのも悪くないだろう。
私は早速マスターから本を借り、簡易テントに持って帰って読むことにした。
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