黒い数珠

 林間の墓所に納骨を済ませると、提灯が入用になるほど辺りは暗かった。太一は母に手を引かれながら、葬列の一番後ろを歩いていた。

「八分者の葬儀なんぞ適当でええんじゃ」

 そんな声が行列の前方から聞こえてきた。太一が母の手を引っ張ると数珠がカチリと鳴り、薄闇の中に微笑む母の白い歯が見えた。

 一足ごとに濃くなる闇を祓うため、行列の前方で松明が数本点された。その炎は太一の目を眩ませた。太一は、隣を歩いているはずの美しい絽の喪服姿の母を闇へ念じ、母が握っている黒い数珠を自分の手首へ幾重にも巻いて、その手をぎゅっと握った。

 その途端、手からスルスルと数珠が抜け落ちていく感覚があった。太一は思わず立ち止まった。葬列はそのまま往ってしまい、辺りは真っ暗になった。

 虚空を掴むばかりの太一の手から、歯黒蜻蛉の翅が四枚落ちた。

 太一は、それが母だと思った。そして自分は母よりも先に死んでいたのだと思った。

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