竜安禅師取材記事の顛末 16/i=i+1 隠れている石

「で、肝心の、柔和かつ大胆な芭蕉の襖絵を撮り忘れ、学芸員の岩田さんとも会えず仕舞い。全く…」

 メモをもとに書き上げた記事に、編集長は不平タラタラだった。

「夢物語もいいが、基本的事実に誤謬があるようじゃ、使い物にならんよ」

「事実誤認? いったいどこに?」

 編集長は、ヤレヤレという風に原稿と写真を示した。

「石の数だよ。全く情けない」

「いやいやいや。写真の石の数と原稿の石の数とが違うのは、庭の石は必ず一個隠れるように配置されているためで…」

 編集長は「もう勘弁してくれ」という顔で私をみた。

「石はどのように見ても必ず一個は隠れる。ということは、目視でも、写真でも、図面でも、箱庭でも、ドローンでも、庭に降りても、それらを照合してみても必ず一個隠れるのだ。であるからして、君の為すべきは―」

「16個目の石を見てくること」

 私と編集長とは、そう同時に言うと顔を見合わせて、呵々と笑った。

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