竜安禅師取材メモ 13/15 影
味噌の底に味噌塗れの手羽先のようなものが二つのたうっている。それはズルズルとせり上ってきて、座席の間に、杜若のような僧衣を翻し、それぞれ「太郎・次郎」と名乗った。私は、疑天竜安禅師に救いを求めた。だが禅師は一本の竹輪と化していた。
「竜安は怪しげな術を用いる悪逆非道の破戒僧である」
「我々は無念の内に石裏に封じられた」
「我々は三河安城で千年待った」
「お前の刀で、隣の竜安に引導を渡してくれ」
私は自分の手にある刃に戦いた。
「私にはできません。今なら禅師は竹輪ではありませんか」
「それは影だ」
「頼むぞ。怨むぞ。頼むぞ。怨むぞ」
禅師は柔和に私を見た。石庭に吹く風を孕み、私の懐から刀がのぞいた。私は「南無三!」と刃を禅師に突き通した。
刃は禅師を突き抜け、私もそのまま突き抜けた。
「それは影です」
車両が呵々と岐阜羽島のホームを過ぎる。地団太を踏む僧の影が二つ、空に飛び退った。
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