竜安禅師取材メモ 12/15 竹輪味噌
油塀の向こう側で、竹が呵々と鳴った。私はそちらを見て、それから隣の疑天竜安禅師を見た。
禅師は前のシートの背からテーブルを下ろし、そこに石庭を鑑賞していた。禅師は直角のままの背もたれに、背を預けることなく竹輪のように真っ直ぐに座っていたので、テーブルと禅師との間は横にした竹輪一本分の隙間さえもなかった。
私も自分の前のテーブルを降ろした。
すると丸い窪みには味噌が満たされており、天板の中央には竹輪が一本、真っ直ぐに横たわっていた。
私は竹輪を握って右目の前にあて、その穴から、テーブルの味噌溜まりを覗いた。そこに禅師の柔和な微笑が、いくつも映っていた。
禅師は横合いから私の手をやさしく導いて、目に当てていた竹輪を、咥えさせた。
「この竹輪を食うのですか?」
と私は尋ねた。
「竹輪を食べては味噌は吸えません」
と禅師は答えた。
車体が羯諦羯諦と揺れ、新幹線は名古屋を出発した。
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