竜安禅師取材メモ 11/15 馨る
朝の石庭に微風が通い、幽かに梅が馨った。疑天竜安禅師はその甘露のような風と一つとなって、空を柔和に舞っている。
「不立文字とはなんですか」と私は胸中に問うた。禅師は人差し指で鼻を指し示した。私が腹を両手で抱えると、禅師は額に左の人差し指を一本立て、それからピンと伸ばした右手を横に薙いだ。私が両拳の甲で膝を叩くと、禅師は眼前でゆっくりと手のひらを左右に振った。すると、私の鼻腔に何かが強く馨った。
香ばしいような甘い匂いだった。濃厚に滴るような匂いだった。鼻腔から咽喉、そして舌から胃を絞り上げるような甘美な匂いだった。焦げ臭い煙の匂いが混じっていた。止めどなく唾液が溢れ、内臓が捩れるように痛んだ。私は身悶えしながらその正体を探した。
「うなぎ…」
ようやくその三文字を思い出した瞬間、匂いは急激に弱まり、うな重(梅)のイメージが現れた。隣の座席の男がそれを奪い、呵々と笑って食ってしまった。
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