竜安禅師取材メモ 10/15 茶

 朝のお庭は体が冷えるでしょうと、疑天竜安禅師が濃茶を練ってくださった。

 茶筅の音が柔和に響く。雲が飛び、庭が陰となった。作法を知らぬ私は、石庭の岩の一つによく似た茶碗を手に取り、一口啜る。苦味の中にあるかすかな甘みが、ほんのりとともる灯篭の明かりのように暖かい。

「お加減は?」

「結構なお点前で」

 続けて二口半。激しい風が一陣吹き抜ける。

「銘は?」と私は尋ねた。禅師は、

「見性でございます」と答える。

 再び太陽の照る庭は白く清浄である。


 大きく欠伸をして、「掛川茶」というペットボトルのお茶をゴクゴクと飲む。

 ここら辺はみんな茶畑だなと思い景色を見る。すると、目に入る限りの茶の木の一枚一枚の葉の形が、すべて違っているということが、はっきりと見えてきた。

 私はまたトイレに駆け込んで便器に屈むと、ドロドロとした緑色の液体を呵々と吐き出した。

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