竜安禅師取材メモ  8/15 皺

 昇る朝日に、石庭の白砂が輝きを増す。その照り返しは、疑天竜安禅師の顔の皺に豊かな陰影を与え、いっそう柔和に見せた。

「世界は無限の部分でしょうか、それとも有限内に現象する無限でしょうか?」と、私は問うた。禅師は無言で、直下の箒目の一つを指した。私はそれを見た。すると私の左右に天を衝く白砂の壁面が迷路のように連なっていた。私は、戻る道を求めて、白の迷宮を彷徨った。

 扉を開けてトイレを出ると、新富士を通過するところだった。車両に戻ると、満員の乗客全員が物凄い勢いで、ボックスティッシュからティッシュを呵々と引き出し、撒き散らしていた。車両内は瞬く間にティッシュで一杯になった。私はそれを掻き分けようとした。だが掻き分けることができない。散々もがいた挙句、私は、自分が今いるのが撒き散らされた無数のティッシュの中なのではなく、ただ一枚の、くしゃくしゃになったティッシュの皺の中であることに気付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る