竜安禅師取材メモ 7/15 便所

 朝の石庭に風が吹き、端然と座る疑天竜安禅師の行灯袴の裾がなびいた。私が、「お庭が永遠を表すのなら、永遠とは乾いたものなのでしょうか?」と尋ねると、禅師は油塀を柔和に見遣ったまま言った。

 まもなく三島という辺りで、私はトイレに立った。だがトイレの中から声が聞こえた。

「この世の永遠なるものの標本に似せた紛い物の過ぎ去った後の残り滓ということであれば、あるいは」

 この言葉は私をソワソワさせた。

 確認してみたら鍵は開いていて、ノックに返事もない。私は扉を開けた。無人だ。だが便器には下痢便が残っていた。私は何故かそれを凝視しながら、水を流す釦を押した。

 その直後、轟音とともに背後から大量の水流が押し寄せた。庭もろとも水没した禅師と私とは、黙って水流を見ていた。水は油塀の一角から抜けていった。

 水が呵々と止まると、眼前に石庭があった。

 私はもう一度釦を押して、便器内の石庭を押し流した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る