竜安禅師取材メモ 6/15 饅頭

 疑天竜安禅師の姿勢は突き立つ矢のようだったが、その表情は常に柔和だ。

「存在が相互依存的だというのは、相対的だということでしょうか?」と私は尋ねた。

「相対的というのはどうでしょう。存在物はみな、絶対に異なっておりますね」

「絶対などと仰ってよろしいのですか?」私は驚いて禅師を見た。だが、そこには禅師は居らず、石塔とお供えの饅頭があるだけだった。

 茫然としていると、饅頭を持った手が現れた。隣でシウマイを食べていた男が「名物の薄皮饅頭。どうぞ」と勧めてきたのだ。礼を言って一つもらうと、男はニコニコしながら自分の饅頭のセロファンを剥き、餡を溢しながら頬張った。私は矢も楯もたまらず、呵々という音を立ててセロファンを毟り、かぶりついた。

 それは何の味もしなかった。手の内に残った饅頭を見ると餡子が入っておらず、餡子が入っていない饅頭には薄皮もなかった。そして隣の席は無人で、冷たかったのである。

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