竜安禅師取材メモ 4/15 シウマイ

 寒暁の石庭は、白砂の仄明かりに抱かれた薄闇であった。私は傍らの柔和な影に尋ねた。

「涅槃の世界とは、どのようなものなのですか?」

 疑天竜安禅師の声が静かに響いた。

「それは隠されてはおりません」


 朝日が庭を照らした。庭石に隣の庭石が映っていた。その隣の庭石も隣の一群れの石組を映していた。全ての庭石が庭の全てを映し、全ての白砂の一粒ずつが庭の全てを映していた。その全てに私がいた。私は世界を映し世界に映される鏡なのであった。


 焼売の香りがしてきたのでそちらを向くと、新横浜から乗車してきた会社員が、隣で崎陽軒の特製シウマイ12個入のフタを開けたところだった。並んだシウマイは互いに互いを映し、それはただ一つのシウマイのように見え、合わせ鏡に映したかのような無限のシウマイの連なりにも見えた。もはやシウマイは私であり私はシウマイであった。

 会社員が手にした醤油さしの顔が呵々と笑っていた。

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