第12話 初めての街
何処に行けばいいのかは分からないが、とりあえず歩き回った。ひたすら歩き回った。背中にリュックを背負い、右手でガチャガチャマシンを引きずって歩く。キャリーが付いているので移動させること自体はそれほど困らなかった。
暇があればメダルを入れてレバーを回した。暇がなくてもレバーを回した。不思議なことにどれだけハズレのカプセルを引き当てても中身が減っていく様子はなかった。まさしくパチンコ的抽選方式。ハズレを引き続けていたとしても、当選確率が上がるわけではないのだ。運が悪いと延々とハズレを引き続けてしまう。
ハズレカプセルは白く、グッドラの入ったカプセルは青かった。カプセルを開けてみてのお楽しみという点では物足りない気もするが、色つきのカプセルが出た時点で何かしらの当選が約束されるので、それはそれで脳汁が出る。
――ちなみに脳汁というのは、パチンコ打ちには常識的な用語だ。実際に脳から汁が出るわけではないが、エンドルフィンやアドレナリンといった脳内麻薬が作用して、幸福を感じたり興奮したりすることを言う。俺は単なるギャンブル依存症なので詳しい仕組みは分からないが、とにかく興奮すると脳汁が出る、という表現を使いがちだ。
青色のカプセルはやたらと引けるようになった。
一週間分の食料と飲料はひとまず確保することが出来たので、目的地は無いが歩き始めた次第だ。
歩いてはテントを張り、眠り、歩いてはテントを張り眠り、それを何日となく繰り返し続けた。
最初に貰ったガチャガチャ用のメダルが底をついたので、呪文を唱えては補充をしていった。一度の呪文につき一枚しか降ってこない。かなり非効率だ。ガチャガチャマシンを手に入れたことで抽選を視認出来るようになったが、手間が増えたのだ。なんだかキングに騙されたような気もする。
メダルを入れてレバーを回す作業に三秒はかかる。出てきたカプセルの中を確かめるのに更に三秒かかる。白いカプセルはハズレだと分かってはいるものの、一応中身を確認せずにはいられない。
考えれば考えるほど、戦闘に向かない。
効率が悪いにも程がある。なにかいい方法はないものか。魔物に襲われるのは一瞬で、その一瞬の間にガチャガチャなんて回してはいられない。
先日のユニコーンに襲われた件で、俺はこの世界で生き残ることの難しさを痛感していた。あの時はたまたまチャンセがいたから、瀕死の重傷から回復することが出来たが、仮に今、また襲われでもしたら、それこそ一巻の終わりだ。生き延びることは出来そうもない。
テントで眠る前にひたすら呪文を唱えてはメダルを増やし、歩きながらガチャガチャを回し続けた。いい加減、白いカプセルの中身を確認する作業が煩わしくなって、そのカプセルを放り投げた。
すると、そのカプセルは空中で消失した。その現象が妙に気がかりになり、グッドラが入っている青色のカプセルで試してみた。
同じようにカプセルは空中で消失し、そこにグッドラが現れた。なるほど、わざわざカプセルを開けて中身を確認せずとも、こうして宙に放り投げることで中身の開封が出来るということか。
これによってカプセルを開ける動作をカット出来るので、ほんの僅かではあるが時短に繋がった。カプセルを開ける作業は思いのほか疲れるので、ただ放り投げればいいというのは精神的にも楽だった。
あてもなく歩き始めて二週間ほど経っただろうか、だだっ広い荒野の果てに、大きなビル街が視界に入るようになった。この世界に来てから、初めて人工的な建物を目にした気がする。もしかすると、あそこに行けば他の人間と出会えるかもしれない。仲間を見つけられるかもしれない。
そう思うと、妙にテンションが上がった。基本的に一人きりの時間が続いたので、他人との触れ合いに飢えていたのかもしれない。
それから、俺はそのビル街を目指して歩き続けた。少しづつ、そのビルが大きく見えてくる。確実に近付いている。ビル街を発見してから一週間ほどで、ようやく俺はその入り口に辿り着くことが出来た。
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