第13話 寝る時はパンツ一丁で
改めて周囲を見渡すと、かなりの高層ビル群だ。二十階、三十階建てくらいのビルが幾つも連なっていて、自分が歩いてきた荒野と同じ世界とは思えなかった。
とはいえ、人の気配はまるでない。ゴーストタウンという表現が適当かは分からないが、薄暗い街の景観は気味が悪かった。自分が前世で見てきた街とは違う。見知った企業の看板なども一つも見当たらない。
いくつかのビルの入り口を手当り次第に探ってはみたものの、自動ドアは動かず、手動でも開けられない。何かの役に立つかもしれないと思って持っていたブロック石をぶつけても、ガラスは割れなかった。
何か特別な方法があるのかもしれない。異世界っていうくらいだから、魔法じゃないと解除出来ないロックがかけられているのかもしれない。しかし、そうだとすると俺にはこのご立派なビルには入ることさえ出来ない。何かしらの進展があると思っていただけに、いきなりの八方塞がりで正直気が滅入っていた。
ホントに人っ子ひとり見かけない。こんなにデカイビル街があるのに、誰もいないなんて有り得るのか。何処かに隠れているのだろうか。
このビル街もまた、果てしなく続いているように見える。荒野を抜けるのに、一ヶ月近くは歩き続けたのだ。このビル街を抜けるのにも、最低でもそれくらいは歩かなければならないだろう。歩き続けていれば、何処かで他の人間と遭遇することが出来るかもしれない。仲間になって貰えなくても仲間に入れて貰えなくてもいいから、とにかく誰かと話がしたい。
ビル街で寝泊まりを始めて一週間が過ぎた。ビルの中には入れないので、ビルの軒先にテントを張って暮らした。かなり滑稽に思えたが、プライベートスペースは確保しておきたかった。俺は寝る時はパンツ一丁にならなければ安眠出来ない。さすがにパンツ一丁の姿を晒して寝るわけにもいかない。
――まあ、誰に見られるわけでもないんだが。
ビル街の探索は毎日続けたが、相変わらず建物の中に入ることは出来なかったし、他の人間に会うこともなかった。街の至る所に文字が書かれていたが、どれも初めて見るものばかりで理解出来なかった。唯一、数字だけは前世の世界のものと似た形をしていたので、数字を見かけると妙にホッとした気分になった。
いつものようにテントに入り、服を脱ぎパンツ一丁になる。毎日の日課であるガチャガチャ用のメダル作りの為に、途方もない数の呪文を唱える。非効率だが、やらなければいけない。備えておくことは重要だ。最低でも数百枚のメダルは常備しておきたい。
眠気に襲われて、目を閉じようとした時、テントの外から物音が聞こえた。小さくではあるが、確実に自分以外の何者かによって作り出された音だ。
一気に眠気が吹き飛んだ。
また、魔物かもしれない。
――しまった、攻撃手段が何もない。
俺は、静かに、そしてスピーディーにガチャガチャを回し続けた。いい加減、ベルン出て来いよ。
回せども回せども、出てくるのはハズレの白いカプセルと、グッドラの青いカプセルばかりだ。青いカプセルが幾つ出たところで使えるのは一度きりなのだ。意味が無い。それにグッドラが喋ると、外の何者かに勘づかれてしまう危険性があるので、カプセルを開けるのは得策じゃない気がした。
ひたすら、ガチャガチャを回す。
――やはり、こんな戦闘スタイル、不利過ぎんだろ!
遂に、緑色のカプセルが出た。中身は分からないが、グッドラでないことは確かだと思う。
その瞬間、テントの入り口が何者かによって無理矢理開かれた。
外を確認する余裕もなかった俺は、カプセルを宙に放り投げた。カプセルはテントの低い天井に当たって割れ、中から白い煙が噴き出しテントを覆い尽くした。
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