第10話 男はマザコン

 目を覚ますと、俺は母親の腕に抱かれていた。

 ユニコーンの角が貫通したはずの腹部も、背中から落下して折れたと思った骨も、全てが嘘のように綺麗に治っている。痛みも全く感じない。


 ああ、夢でも見てたのかな。

 オカン、なんか若くなってねえか?


「雲外さん、大丈夫ですか?」


 ん?オカンの声、こんなに綺麗だったか?


「雲外さん、お気を確かにしてください」


 よーく、目を凝らすと、チャンセの姿がそこにあった。先程まで母親の腕に抱かれていたはずなのに、母親の姿は何処にもなかった。


「チャンセ、いま、おれのオカンが……」

「恐らく、雲外さんが会いたかった人の、癒されたかった人の姿が私に投影されていたんですわ」


 そういうことか、そういえばそんなことを説明されたような覚えがある。でも、なんだか気恥ずかしい。まるで俺がマザコンみたいじゃないか。


「雲外さん、そろそろ私は失礼しますわ。傷も癒えたようですし。またいつかお会いする日を楽しみにしておりますわ 」


 チャンセはそう言うと、光の中へ消えていった。



 助かった。

 チャンセがいなければ、今頃俺は死んでいたに違いない。キスとかハグとかそんなくだらないことに能力を使わせていたら、間違いなく死んでいた。


 改めて思った。このギャンブルーレットの能力の使い道と使い所は慎重に考えなければならない。せっかく二十四時間、召喚をキープ出来るのだから、なるべく引き延ばした方がいい気がする。連続で精霊を当選させることが出来ればいいのだが、これまでの試行回数からの当選率を鑑みるに、そう容易く連続当選はしないだろう。


 攻撃に特化したベルンは戦闘時に重宝するだろうが、やはりチャンセの回復能力は何にも代え難い。即死さえしなければ、完全に回復することが出来るのだから、ある意味チート級の能力だろう。


 しかし、腹が減っては戦ができぬ。

 そろそろグッドラを呼び出したい。このギャンブラーズエデンに放り込まれてから三日、グッドラの作り出してくれる物しか口にしていなかった。この先、何処かに食事のできる場所にありつければいいのだが、現状ではグッドラに頼らざるを得ない。


『この命を賭して天に命ずる』


 数回、唱えてみたものの、相変わらずどの精霊も現れない。このペースだと、いずれ俺は餓死するかもしれない。


 それにしても、ギャンブルって名前を冠されている割には全然面白くない。それもそのハズだ。抽選されている様子がまるで分からないのだ。パチンコにしても競馬にしても競艇にしても、抽選される過程やレースを見ずに結果だけを渡されてもそこまで興奮することはないだろう。まして、お金がかかっているわけでもないので余計に退屈に思えるのだ。


 ルーレットでもパチンコでも、何らかのカタチで抽選してくれたら面白いと感じるのに。



「相変わらず君は無い物ねだりばかりだね、雲外蒼天」


 久しぶりにキングの声を聞いた。今度は何処にいるんだ?


「何処だよ?」

「私はそこにはいないよ、君の脳内に直接話しかけているんだよ」


 気持ちの悪いことしやがって。


「相変わらず失礼な男だな君は。そんなことではせっかくの嬉しいプレゼントを貰えなくなっちゃうぞ?」

「プレゼント?」

「そうさ、プレゼントさ。君はさっき、抽選されている様子が目に見えればいいのに、と思っただろ?」


 確かにそうだ。こいつは俺の思考まで把握してるのかよ?


「だからね、君のギャンブルーレット能力に更に付加価値をつけてあげようと思ってね」

「マジかよ? じゃあ頼むよ」

「それが人にものを頼む時の態度かい? もっと誠意を持ってお願いしてみたらどうだい?」


 相変わらずムカつくやつだ。


「お願いします、とにかくお願いします」








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