第7話 童貞は大人の女性に弱い

 異世界とは言うものの、このギャンブルーレット能力の精霊以外のものとは遭遇しないのでかなり拍子抜けしている。あ、キングとかいうヤツもいたか。なんにせよ、魔物とかドラゴンとかはいないようだし、人影すらも見当たらない。この異世界で、ポツンと独りぼっちになった気分だ。


 とは言え、ベルンの能力を使う様な状況、つまり戦闘は避けたかったので好都合でもある。ベルンの当選確率はグッドラと大差ないハズなのに、全然出てこない。遠隔操作でもしてるのか、このボッタクリめ、と悪態をついてみてもベルンが姿を現すことはなかった。


 それどころかグッドラにもしばらくの間当選していない。グッドラの能力は強くないと言ったが、日常生活を快適に送る上で彼女は必要不可欠だ。彼女が作り出してくれる食料は、どれも前世で食べていたものと同等の美味しさがある。異世界で食べるという状況を加味すれば、更にひと味もふた味も美味しく感じられた。


 しかし、何処に行けばいいのかも何をすればいいのかも分からない。ギャンブラーズエデンがどういう場所なのかは聞き出せたが、その目的や攻略法までは教えて貰えなかった。


 ギャンブラーズエデンは、最初にキングが言っていたように、前世でギャンブル中毒だった人間が数多く転生してきている。転生者それぞれに特殊な能力が付与されて、それを駆使して生き延びていくのがこの世界の唯一にして最大のルールらしい。生き延びた先には何らかの報酬が受け取れるとのことだが、それが何かは今のところは分からない。


 戦う相手が自分のような転生者なのか、魔物やドラゴンとか化け物なのかも教えては貰えない。ただ、その類いの人外の生物が存在しているとの情報はグッドラから聞き出せた。なので、今の俺は、なるべくその人外の生物と遭遇することなく、やり過ごしたい。いきなり戦うには知識も経験もなく、更に持ち前の運の悪さでギャンブルーレットの当選が難しい状況で、生身の俺が生き延びていくのは無理難題に思えた。



『この命を賭して天に命ずる』という呪文をかれこれ百回近くは繰り返しているが、どの精霊にも当選しない。こんなことが実際に起こるものなのだろうか?


 もっとも、当選確率が明確にされている訳ではないので、文句も言えない。グッドラの能力を使っても正確な当選確率を聞き出すことは不可能だった。『それは教えられない決まりなの、ごめんね』と可愛く笑ったグッドラをハッキリと覚えている。可愛いから許したが、これがベルンに言われていたとしたらぶん殴っていたかもしれない。



 無闇に歩き回るのは危険だと判断して、簡易テントで寝泊まりをした。グッドラに貰った食料も底を尽きかけている。


 呪文は相変わらず、何の役にも立たない。精霊はいつまで経っても呼び出せず、時間だけが過ぎ、ついに食料も無くなった。このまま、精霊を召喚出来ないと、俺の転生ライフは確実に詰む。飢え死にせずに三日間過ごせたことは良かったが、結局、異世界らしいことと言えばベルンの魔法を見たことくらいだ。そう考えると生意気なベルンにも感謝しなくてはならない。



『この命を賭して天に命ずる』と、何回目かも忘れた頃に、眩い光が俺を包み込んだ。出来ればグッドラに当選していて欲しい。食料をまた確保したい。


 光が消えていくと、そこにはチャンセがいて、俺を見て優しく微笑んでくれている。


「また会いましたね、雲外蒼天さん」


「チャンセさんかぁ、そうかぁ」


 グッドラを召喚することには失敗したが、それよりもレアな精霊を呼び出してしまった。


 癒しの精霊チャンセ。相変わらず、美人だ。黒く長い巻き髪は美しく、妖艶な色気を醸し出している。グッドラの可愛い感じも捨てがたいが、チャンセの色っぽい大人の魅力もたまらなくいい。童貞の俺には刺激が強すぎる。


「雲外蒼天さん、何をお求めですか?」


「えーっと、今は怪我もしてないし、痛いところもないし、とりあえず今のところは何も……」


「そうですか? それでは何かありましたらお声かけしてくださいね」


「あの、お話するのは能力を使うことになりますか?」


「ええ、それは大丈夫ですわ。私の能力は癒しの能力ですので、それを使わない限りは……」


「じゃあ、しばらくの間、話し相手になってくれませんか?」







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