第5話 グッドラ

 右手で、左手のリストカットの跡を握った。

 そして、例の呪文を唱える。

『この命を賭して天に命ずる』


 なにも起きない。呆気に取られて呆然とした。

 特殊能力と聞いて内心ワクワクして、ドキドキしていたのに、何も起きないとはどういうことだ?


 もう一度試してみる。


『この命を賭して天に命ずる』


 またしても何も起きない。不良品の特殊能力なんてお呼びじゃないんだが。


 三度目の正直だ。これでダメならもう諦めよう。


『この命を賭して天に命ずる』


 すると、空が急に黒くなり始め、雷が落ちるように目の前に一筋の光が落ちてきた。


「やっほ。大当たりおめでとう」と、小さな妖精のようなものが話しかけてきた。


「大当たり? どういうことだ? ていうか君は?」


「アタシはギャンブルーレットの七精霊のひとつ、『グッドラ』だよ。あなたに呼び出されたから、こうして駆けつけてきたんだよ」


 よくみると可愛い女の子の顔をしている。背中に羽根が生えていて、体の大きさは人差し指ほどしかない。


「でも、さっきは何も現れなかったけど?」


「あなたは何も知らないんだね。とりあえず、何か願いがあるんでしょう?」


「え?飲み物くれんのか?」


「はい、どうぞ。好きなものを言って」


「それじゃメロンソーダくれ、炭酸強めの」


 グッドラは何かをボソボソと喋ると、両手から光を放出して、その光の中からグラスとグラス一杯に注がれたメロンソーダが現れた。


「はいどうぞ、召し上がって」


 俺はグッドラから受け取ったグラスを持ち、メロンソーダを一気に飲み干した。炭酸が渇いた喉に刺さるようで気持ちよかった。


 ぷはぁ、生き返るぅ。あ、ありがてぇ。


「ありがとう、グッドラ。でもなんで最初出てこなかったんだ?」


「それが『ギャンブル、ルーレット』ってことだよ。アタシを含めて、他の七精霊を呼び出すのにもある一定の確率に当選しないといけないのよ。まぁ、アタシは比較的会いやすいほうだけどね。当選しやすい精霊は能力がそんなに強くはなくて、滅多に当選しない精霊はチート級の能力を発揮するわ」


 なるほど、と思った。ルーレットで当たりを引ければ精霊の能力を使うことが出来る。当たりやすい精霊は能力もそれなりで、当たりにくいレアな精霊になるほど能力が強くなっていくってことか。


 ん?

 待てよ?


 これって戦闘には向かないんじゃないか?呪文を唱えても当選しなければ精霊を呼び出せないし、簡単に当たる精霊では能力に期待出来ないのでは?


「あのさグッドラ、聞きたいんだけど……」


「あっ、ごめんねー。アタシは一回の召喚につき一つの願いしか叶えてあげられないのっ」


「そんな、じゃあ、もう一杯メロンソーダを置いてってくれないか?」


「それも無理っ。飲みたければもう一度呼び出してちょうだい。バイバイっ」


 そう言うとグッドラは天空へと消えていった。

 聞きたいことは山程あるのに。


 よし、もう一度呼び出してやろう。


『この命を賭して天に命ずる』……

『この命を賭して天に命ずる』……

『この命を賭して天に命ずる』…………


『この命を賭して天に命ずる』…………

『この命を賭して天に命ずる』…………


『この命を賭して天に命ずる』………………

『この命を賭して天に命ずる』………………

『この命を賭して天に命ずる』……………………


 諦めよう。










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