第24話 bar梟の宴、うたた寝の先

 いろんな物音が聞こえて、能勢は目を覚ました。

 笑い声が飛び交い、アコースティックギターの音が聞こえる。

 頭を上げると、目の前には椅子に座って煙草を吹かしている燐さん見えて、自分がまだbar梟いることを認識した。

 店内には、親密な関係の者たちだけが醸し出す心地の良く、緩やかな空気が充満している。

 ステージ前の客席には少人数のグループが複数形成されて、それぞれがお酒を片手に楽しいそうに談笑している。

 煙草とアルコールと香水と体臭が混ざり合った独特の香りが漂ってきた。 

 不意に能勢は幼い頃の記憶を思い出した。

 母方の祖父の実家では地域の顔役でもあった祖父の家に祭りの日には朝から、近所の人がひっきりなしにやってきて、お酒を飲んだり、ご飯を食べたりしていくのが恒例行事だった。あの時と同じ匂いが、今のbar梟には漂っていた。

 能勢は、大きく息を吸い込んで伸びをした。

「燐さん、今何時?」

「お、起きたかい?おはよう。もう十一時ぐらいだね」

 燐さんは、大きな欠伸をしながら言った。店の閉店の時間も近い。

「だいぶ寝ていたみたい」

「ほんと、よく寝ていたわ。そんな不安定な丸椅子の上で寝られるなんて、大したもんだよ」

 能勢が座っているのは背の高い猫足の椅子。

 かなり年季が入っていて、足の長さも微妙に違うため、グラグラと揺れるのだった。

「全く気にせずに寝ていた」

「器用だね」

 燐さんは笑いながら冷蔵庫からりんごジュースの缶を出して、能勢の前に置いた。

「お客がくれたもんなんだけど、酔い覚ましに飲みな」

「うん、ありがとう」

 お礼を言って、プルタブの蓋を開けた瞬間に、爽やかな林檎の香りがした。能勢はそっと缶に口をつけた。程よい酸味と甘みが口の中に広がる。

「おいしい」

「それは良かったよ」

 燐さんは笑った。甘いりんごジュースは体中のアルコール分を溶かして包み込んでくれ流ような気がした。

 少しづつ頭が冴え始め、帰るなら今のタイミングだなと思った。これ以上はいたら、居心地の良いこの空間の空気に飲み込まれて、抜け出せなくなってしまう。

「私、帰るね」

 能勢がそう言うと、燐さんは無言で頷いて、伝票を差し出した。

 予想よりも安い金額を払って、能勢はbar梟を退出した。

 燐さんに手を振って、まだ活気の残る夜の繁華街を歩き、適当なところでタクシーを捕まえて、家まで帰った。

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