第7話 夕暮れ
ぐにゃりと世界が曲がる、混沌とした黒い渦が押し寄せて私を飲み込もうとする。
苦しい。
「うわぁぁ!」
能勢は叫びながら、ベッドから慌てて飛び起きた。。
夕暮れの光がカーテンの隙間から部屋に差し込み、能勢の頬を照らしていた。
「あれ、夢、だった?」
能勢は辺りを見回した。
いつもと同じベッドからの景色。
帰ってきてそのまま寝たことを思い出した。
安心して力が抜けると、もう一度、ベッドの横になった。
背中から足まで水をかぶったようにびっしょりと汗をかいている。
何か夢を見ていた気がする。
すごく怖い夢だった。
でも夢の内容は思い出せない。
能勢はカーテン越しに沈んでいく太陽を見つめた。
額に張り付いている前髪を手櫛で梳く。
びっしょりと汗をかいている。
「大丈夫。夢だったから」
自分に言い聞かせるように言葉を吐き出す。
枕元の携帯を手に取り時刻を見ると午後六時十五分。
もうすぐ一日が終わってしまう。
そう思うと急にどこかに出かけたくなった。
どうせ明日も休みなのだから。
「隣町のお気に入りのバーに行こう」
独り言を呟く。
まずは、汗で濡れてしまった服を着替えるため、能勢はお風呂場に向かった。
シャワーを浴びて、部屋に戻るとオレンジ色に輝いていた太陽はいなくなり、
代わりに窓外は薄紫色の世界に変わっていた。
もうすぐ夜が来る。
ジジジジッという静かな音を立てて、街灯が白色の明かりを灯し、薄明かりが部屋に飛び込んでくる。
能勢は、台所の蛍光灯だけを点け、ドライヤーで髪を乾かし、下着を身につけた。
簡単にメイクをして、デニムのパンツとGパーカーと着替えた。
髪を整えるのが億劫になり、ゴムで一つに束ねて結び、黒いキャップを被った。
肩掛けのポシェットに財布と携帯、オレンジ色のリップだけを入れて、赤いコンバースを履いて、家を出る。
世界はいつの間にか群青色になっていた。
うす暗い外廊下を進み、エレベーター横の電灯のスイッチを押す。
白色の蛍光灯は一瞬点滅をしたあと、暗闇をはねのけるように灯った。
コンクリートの壁に移る自分の大きな黒い影を横目に、エレベーターに乗り込む。
アパートの外に出ると湿っぽい夜風が静かに吹いて、そこには青みがかった黒い世界が広がっている。
能勢は駅とは反対方向に歩き出した。
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