第5話 帰路

 部室棟を囲む杉の木々が風に吹かれ、枝をざわざわと揺らした。

 音響研究部の無駄に大きい窓から差し込む日の光は、揺れる枝に合わせ、コンクリートの床にまだらな光の模様を作る。

 遠くでチャイムの鳴る音が聞こえたような気がして、能勢は、黒板の上にかかった円形の電波時計を見た。

 短針は三の数字をさしている。

 間も無く五限目の授業が終わる。

 能勢はソファーから立ち上がり、大きく伸びをした。

 ソファーがぎしっという音を立て、野瀬の背中がぽきっと音を立てて鳴った。

 能勢は入って来た時と同じドアをそっと開け、静かに階段をおり、部室棟を出た。

 正面玄関の方からは、早々に講義を終えたらしい学生たちの話声が聞こえてきたので、能勢は部室棟を迂回し、ツツジと若い楠でできた小道を抜けて校外にでた。

 歩道を歩きながら振り返ると、中央棟のとんがり屋根が木々の上に見えた。

 もうここには来ないんだ。

 そう思うとどうしても寂しさが込み上げてきた。

 能勢は、中央棟から目をそらし、駅までの道を早足で歩いた。

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