第22話

「……ッ!!!」

 

 僕は自分の頭の中に響いてきたスキルの声を聞いて一気に頭の中へと血が上る。


「ざっけんなッ!」

 

 誰が逃げるものかッ!アレシア様を置いてッ!

 僕は先ほどの攻撃を受け、吹き飛ばされた魔剣エクスカリバーを影を使って手元にまで持ってきて、剣を構える。


≪魔王から逃亡してください≫


 頭の中の声を無視して僕は魔王との絶望的な戦闘を始める。


「……ふむ。確かに強いが、この程度か」

 

 僕は相当強くなったはずだが……だが、魔王には及ばない。

 なんてことはない。

 ただただ絶望的に素のスペックが勝てないのだ。

 どれだけ技量でカバーしようと努力しようとも無駄……羽虫が人間に敵わないように僕も魔王に敵わない。


「……くっ」

 

 何も出来ずに地面を転がされ、魔王を相手にひたすら防戦を展開するしかない僕は歯ぎしりしながらただただ藻掻く。


≪魔王から逃亡してください≫


 ……うるさい。勝てないことはわかっているんだよッ!

 だからと言って負けるわけにもいかないんだッ!

 

「存外粘る」

 

 魔王の膝蹴りを腹に受け、口から血を流しながらも僕は気丈に魔王を睨みつける。


≪魔王から逃亡してください≫

 

 僕は地面を蹴り、魔王の背後へと回りこんで剣を一振り。

 容易く僕の剣を弾いた魔王へと足蹴りを一つ。


「……ッ」

 

 蹴りを入れた僕の足に帰ってくるのは不動としか言いようのない硬い結界を蹴った衝撃。


≪魔王から逃亡してください≫


 魔王はまるで羽虫でも払うかのように手を一振り。

 それだけで膨大な魔力が僕を襲い、命を削り取ってくる。


「くぅ……」

 

 何とか時間を稼いで……アレシア様が目覚めるだけの時間を……。


「ふむ……これでも終わらぬか。確かにあやつの言葉は至言であった。これを放置するのはいささか問題だったかもしれぬ」


「はぁ……はぁ……」


 それでなんとかアレシア様が逃げる時間を……。


「だが、それもここまでだ」


「ぐふっ」

 

 僕の腹を魔王の拳が貫き、体が宙を舞う。


「……はぁ、はぁ」

 

 僕の視界が霞む。


≪魔王から逃亡してください。現状であれば影を使えば逃亡可能です。個体名:アレシア・ラインハルトを見捨てて逃亡してください。これが運命です≫


 ……ざっけんな。

 何が運命だ……ふざけやがって。僕の道も運命も己が決める。


「僕の道に他人が口出してくんじゃねぇぞ……ッ!僕の運命は……僕が切り開くッ!アレシア様を見捨てた自分の未来などいるかッ!」

 

 僕はふらふらの体で立ち上がり、剣を魔王へと向ける。


≪条件の達成を確認しました。スキル『運命に弄ばれる者』がスキル『運命を切り開く者』へと覚醒しました。スキル『勇者』を獲得しました。貴方の道に幸福があらんことを≫


 そんな僕の頭に謎の声が響いてくる。


「合格です」

 

 僕は己の内側から膨大な力が溢れてくることを認識すると当時にメイドさんの声が聞こえてきた。

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