第4話

 宿の方から観光のために王都の街へと出てきて街を歩く僕とメイドさんの手には串焼きが握られていた。


「んっ。美味し……ラインハルト公爵家の家で出てくる繊細な料理も美味しいけど、こういう味の濃い大衆向けのも美味しいですよね」

 

 串焼きを口に含む僕は感想を漏らす。


「わかります」

 

 メイドさんも僕の言葉に頷く。


「……にしても、さ。町の人からの僕のヘイト凄くないですか?」


「……」

 

 僕の言葉を受け、メイドさんが黙り込む。


「さっきの串焼きの店主しかり、今こちらを見てくる街の人しかり……全員が全員憎悪のこもった視線を向けてきている気がするんですけど」

 

 黙り込むメイドさんに対して僕はこれまでずっと思っていたことを口にする。

 さっきから僕へのヘイトの向き方が正気の沙汰じゃない。


「……」


「このまま僕が呑気に冒険者ギルドに行ったら冒険者にフルボッコにされません?」


「……まぁ、勝てるでしょう?」


「そういう問題じゃなくないですか?……ったく。僕のクラスメートは一体何やってくれるんだ」

 

 僕はぶさくさと文句を言いながら街の中を歩く。

 黒髪黒目……僕の特徴と言えばこの世界の人間の中では見たことのないこの髪と瞳の色だろう。

 ……まぁ、察せてしまう。


「……和人は立派に生きていますから。堂々と歩いて良いんですよ」


「いや……やりにくいんですよ」


「少し人の少ない観光地の方へと行きますか」


「あー。そっちの方向でお願いしたいですね……基本的に自分は人から憎悪の視線を向けられることが多くないのでやりにくいです」


「良し……それでは貴族とその貴族に招かれた人しか入れない王都の観光地の一つへと向かいましょうか」


「え?貴族しか入れない……?僕ってばあくまでアレシア様の執事なだけで、貴族では当然ないですし、アレシア様よりそんなところに行く許可も頂いておりませんよ?」


「あぁ……大丈夫ですよ。私も貴族ですので」


「え?」

 

 僕はさも当然のように告げられるアレシア様の言葉に驚愕し、固まったのだった。

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